僕と私の戦争記
「はい、じゃあ今月も恒例のお泊り会行ってみましょうか。」
「待って、お願い待って中村クン待って。」
「今月もうやったじゃん。うちこないだ泊まったばっかじゃん。」

とある金曜日。
自主練も終わっていつものように着替えていると、中村先輩が眼鏡を光らせながら言った。

「お泊り会っスか!また湊さん家ですか?!俺も、俺も!」
「「黄瀬黙って。」」
「湊さんまで酷い!!」

いつもならホイホイ話に乗ってくる森山先輩がこんなに反対するなんて。

「森山先輩何か用事でもあるんスか?」
「!!!そう!俺今日用事あるんだ!だから今回は行けな「ふっざけんな一人だけ逃げようなんて許さんお願い一人にしないでくれさい!!!」やめろ離せ湊!」

俺の言葉に、はっとして自分の鞄を引っ掴んで出て行こうとした森山先輩を、湊さんが珍しく崩れに崩れた言葉遣いで引き留める。
一体これほどまでに何があるというのか。

「笠松!!おい笠松はどこだ!!」
「小堀さん、小堀さんも来ます?!万が一、億が一やることになったら来ます!?」
「森山うるせえ。」
「やるならお邪魔するよ。」

げんなりした顔で森山先輩を見る笠松先輩と、苦笑いが取れない小堀先輩。
いよいよ何がなんだか分からなくなってきた。

「あ(れ)、まだ用意終わってなかったんすか。もう鍵閉めま」

今日の鍵番の早川先輩が部室の鍵を持って戻ってきたと思ったら湊さんと森山先輩にアタックを食らってぶっ倒れた。
ごちん、て、すげえ音したけど、大丈夫かな…

「「早川(くん)!!今日暇?!」」
「は、え?」
「今日!これから!」
「ああ!中村が今日月一のお泊(り)会す(る)か(ら)あけとけって言ってたか(ら)な!」

いつもと変わらない早川スマイルを向けられ、普段ならつられて笑顔になる湊さんが、森山先輩と一緒になって真っ青な顔で中村先輩の方を振り向く。

カチャリ。

眼鏡のブリッジを押し上げながら、見たこともないようなニヒルな笑顔を浮かべる。

「抜かりねえ!!」
「外堀から埋めてやがるあいつ…!!」
「私たちが、全員そろわないとやらないってごねるのを見越してたんだ!!」
「恐ろしい子…!!」
「先輩たち、キャラが定まってないッス…」
「やめとけ黄瀬。今のそいつらには何言っても一緒だ。」

なんだかんだお泊り会は遂行されることになったようだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

毎回のごとく、帰り道にあるDVDレンタルの店へ入る。
完全に私と森山さんの足取りは重い。
鉛よりもずっと重い。

「あの、今日迷惑だったんじゃないスか…?」

黄瀬くんがおずおずと聞いてくる。
彼も最近は空気を読むという事を覚えたらしい。
しかし、もう遅い。
あと1時間早く発揮してほしかった。

「いや…来る事自体はいつでもウェルカムだよ…どうせ私しかいないんだし…」
「俺だって今日じゃなかったら入り浸ってるわ…むしろ住む」
「いや、住むなよ。」

笠松さんの突っ込みが入るが、私たちはそんなの今はどうでもいい。
私と森山さんは最後のあがきとばかりに子供向けアニメの並ぶ棚の前から動かない。
が、中村くんと早川くんは二人仲良くどんどん奥へ奥へと進んでいく。
途中で早川くんが笑顔で おいで と呼んでいるけど、貼り付けきれなかった乾いた笑いを浮かべて一応手をあげておく。

「一体何そんな真っ青な顔してんスか、二人とも。」

黄瀬くんが未だに首を傾げている。
しかし、既に目星をつけていたのかすぐに帰ってきた二人が手にしている物を見た瞬間私たちと同じ顔になった。

「俺、急に腹痛が痛くなったので帰るッス。」
「トイレなら貸してあげるから家まで我慢して。」
「何ならそこの薬局でオムツ買ってやるよ。お前なら着こなせるよスタイリッシュオムツ。それでいいだろ。」
「何にもよくないッス!!俺高校生にもなってお漏らしは嫌ッス!!!離して湊さん森山先輩!!!」
「腹痛痛いに先に突っ込めよ。」

私たちは嫌がる黄瀬くんの両腕を引いて、お先真っ暗な帰宅路をまた歩き始めた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

風呂もごはんも全部終えて、万全の体勢で電気を落とす。

「ずるい…なんでいつもこの配置なんだよたまには俺も一番真ん中入れてくれよ…」
「ここは私の特等席です。ここじゃないと無理です。」
「俺だって無理!!」
「今回は俺で我慢してくれよ、な?ちょっと頼りないかもしれないけどさ。」
「小堀テライケメン惚れるわ…どっかの笠松とは大違い…」
「クローゼットへ押し込むぞ。」
「やめて!!!」

ソファに笠松さんと早川くん。
二人のちょうど間になるところの床に私が座って、左右には中村くんと黄瀬くん。
その向こうの座椅子に座る小堀さんの足の間に布団にくるまって森山さんが座ってる。
なんだ、彼女か。

「いつもは小堀さんは私の隣なのに…」
「贅沢言うなよ!!俺はできるなら笠松と早川の間で前を小堀でガードしたかったわ!!」
「ここは私の特等席!!!」
「始めますよ。」

動悸が激しい。
両隣の二人の腕を抱く手に力が籠る。

真っ暗な部屋に、ぼんやりと映し出されるのは、最近DVDになったばかりの人気シリーズのホラー。
しかも、今回は4Dとかなんとかで、携帯と連動するらしい。
私と森山さん以外のメンバーは全員専用のアプリを入れて、楽しむ気満々だ。
あの黄瀬くんですらそわそわしながらもちょっと楽しそうだ。
ほんと、悪趣味。
てか、中村くんが好きなのはオカルトでしょホラーじゃなかったじゃない何なのマジで。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

見始めて2時間半。
ほぼほぼ私と森山さんの悲鳴が絶えなかった。
途中見えた森山さんは小堀さんに縋り付いて、小堀さんも仕方なさそうにぽふぽふと肩をたたいていた。
彼女か。(2回目)

アプリも全員が全部に反応する訳ではなさそうで、ランダムで叫び声が聞こえたり、連動して電話がかかってきたり。
黄瀬くんが面白がって電話状態のそれを渡してきた時はイヤリングも効果を持たず、久しぶりにグーで手が出た。

それでも最後まで見た私はえらいと思う。
毎月やるお泊り会も、中村くんが幹事(?)をやるときは毎回これなのだ。
毎回私と森山さんは死ぬ思いで挑んでいる。

「思ったよ(り)ハラハラしたな!」
「そうか?俺はもう一山欲しかったな。」
「途中から話読めたな。」

冷静に感想を述べているソファ組と中村くん。
小堀さんは森山さんをあやすのに忙しいらしい。
彼女か。(3回目)

「さて、寝るか。明日も練習だしな。」
「早川くん!!早川くんお願い隣で寝て!!」
「おま、寝るときは俺に譲れよ!!」
「お(れ)、間で寝(る)か(ら)、大丈夫っすよ!」
「マジイケメン早川…」
「笠松さん反対側寝てくださいお願いします。」
「お前ベッドで寝ろって毎回言ってんだろ。」
「毎回無理だって言ってんでしょうが。」

敷布団は人数分ないので、ベッドもバラして敷き詰めていく。
掛け布団を追加して、結果的にいつもと同じ順番で横になる。
なんだかんだ言いながらも私の方向いて、懐に入れるように寝てくれる笠松先輩が大好きです。

ぐい、と口元まで掛け布団をあげて隣の二人を確認して目をとじる。

「おやすみなさい。」
「ああ。」
「おやすみ、湊。」

今回も、安心して寝られる。
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