僕と私の戦争記
※今更ですが、時系列は全無視です。IHのトーナメントあたった相手は知り合いだし、キセキたちも一応それぞれの学校に馴染んだ状態で話が進みます。



朝、皆で仲良く同じ時間に学校へ向かって練習をはじめた。
月に1回の救急箱と備品の確認をしてから、笠松さんのところへ行く。

「買い出しへ出てきます。今日の分のドリンクとタオルとかの用意はしてあるので、申し訳ありませんが、各自でお願いします。」
「わかった。」
「タオルは置いておいてください、明日まとめて洗うので。」
「はいはい」

これも毎回いうけど、毎回レギュラーの人たちが洗ってくれている。
帰ってきて干されたままのタオルを見て、いつもうれしくなる。
干し方で、誰がどこまでをやったのかもわかっちゃうし。

軽くあしらわれて、小さく溜息をついて愛用しているリュックを背負う。

「それでは、後お願いしますね。」
「湊!」

がちゃり、ドアを開けた時に後ろから小堀さんの声。
振り返ると、皆がこっちを見て手を振っていた。

「「「いってらっしゃい。」」」
「「気を付けてな。」」
「何かあったら電話しろ、いいな。」

相変わらず過保護なんだから。
シュートを打ちながら言う笠松さんに元気に返事をしてから
私も手を振り返す。

「いってきます!」



私はいつも買い物には愛用している店がある。
昔からお世話になっているところで、場所は東京なのだけれど、
おまけしたりしてくれるし、なによりそこのお爺ちゃんが私がいくと
とても嬉しそうにしてくれるから毎月そこへ通っている。

電車を乗り継ぎ乗り継ぎ、そこそこの時間をかけて最寄り駅へ到着した。
切符を通して1か月振りの道のりを辿る。
わざと少し裏道を通っていく。
実家の近くでもないので、この時くらいしか通らない。
結構この時間も私のお気に入りだったりするので、ふらふらしながら歩く。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「あんたがガバガバ消費するからこういう事になるのよ!」
「わ、わかってるッス…だからこうやって荷物持ちについてきてるだろ…です。」

練習を抜けて、カントクと共に近くにあるスポーツ用品店へ向かう。
俺が入ってから、ドリンクの粉の消費が自棄に激しいと毎回お小言を貰うようになった。
…でも、俺だけじゃないと思う。
言わないけど。
珍しく今回は伊月先輩も一緒だ。

「カントク、その辺にしておいてやれよ。火神も頑張ってる証拠だろ。」
「伊月先輩…!」
「まったく…伊月くん1年に甘いわよ。」
「可愛い後輩だからな。」

おかしそうに笑う先輩は、本当にイケメンだと思う。
…残念だけど。

「ん?」

俺たちよりも先に、店へはいっていく影が見えた。
女バスのやつか…?

「…見ない感じの奴だな。」
「ここ来るの、誠凛の生徒くらいだと思ってたんだけどな。」

伊月先輩も一緒に首をひねる。
カントクは気にも留めず、店へはいって行った。
女子にしては、高い背。
…下手したら黒子より高いんじゃねーか。

「ひさしぶり、お爺ちゃん。元気にしてた?」
「おお、湊ちゃん。元気じゃよ。お兄ちゃん達はどうしとるかな?」
「いう事聞いてくれなくて手を焼いてるわ。今年はうちにも手のかかる後輩が入ってそっちも。」
「はは、相変わらず大変そうじゃな。」
「本当よ、全く。」

肩をすくめると、慣れた手つきで店の奥から脚立を取ってくる。

「借りるね。」
「ああ。それはもう湊ちゃんの専用になっとるからなあ。」

脚立の一番上へあがって、店の一番上へ積んである箱へ手を伸ばす。
届かなかったようで、一度降りてあたりを見回している。
取ってやろうかと声をかけようとしたとき、あいつは近くに置いてあった2段になっている台を持ってまた脚立を上がった。

「気をつけなよ。」
「平気だよ。」

まさか、とは思ったが、そのまさか。
あいつは、脚立の上にその台を乗せてその上へ乗った。
明らかに不安定だ。
見ているこっちがハラハラする。
その状態で箱を取って、爺さんにさっきの話の続きをしている。

「あれ、でもこの近く誠凛があるよね。そこの人たちこないの?」
「ああ、よく来てくれるよ。女の子と、男の子が何人か。男の子の方は毎回違う子だったな。今日は君たちなんじゃな。」

俺たちの方を向いて爺さんが言う。
それに合わせてこっちを振り向いたそいつは、どっかで見たことある顔してた。
…なんだ、誰かに似てる。

「あ、どうも。」
「あら、久しぶりね。」
「最近会わないと思ってたけど、元気にしてた?」
「うん。リコこそ。」
「うちは変わらないわよ。」

どうやらカントクは知り合いらしい。
伊月先輩もひらりと手を振っている。

「誰だ…?」
「こら。先輩に失礼だぞ。」
「いいよ、伊月くん。うちの1年も変わんないから。」

両手に抱えた箱を3に増やして、そいつは器用に脚立を降りて来た。

「火神くん、だね。」
「…何で知ってんだ。」
「火神くん!」
「いいよ、リコ。こないだ練習試合来たときは私居なかったもんね。初めまして、宮地湊と言います。海常のマネージャーです。」

宮地、と聞いて思い出した。
緑間んとこの3年が、同じ名前だった。
あたまも、こんな色だったと思う。

「秀徳の、」
「ああ、そう。清志と裕也の妹です。」

やっぱりか。
どこかで見たことがある顔だと思った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「でも、なんでこんなとこまで?」
「昔からここにお世話になってるから。でも、リコに会えるなんて、嬉しい誤算だったな。」

小さく笑うと、リコは少しはにかんで腰に手をあてた。

「あんた、本当変わんないわねえ。」
「褒め言葉だと思っとく。」
「あ、ねえ今日もう海常戻らないんでしょ?」
「え、うん。」

明日はちょうど祝日で学校はない。
練習はあるけど、9時頃からだったと思う。

「なら、誠凛寄って行きなさいよ。」
「え」
「カントク!?」
「あら、いいじゃない。折角こんなところで会ったんだし。」
「でも、海常のマネージャーッスよ?!」
「だから何よ。」
「敵校の奴招き入れるなんイデェ!!」
「私の親友になんて事言うのよ。」

リコの容赦ない手刀が彼の米神に決まる。
うわあ、南無南無…

「なら、今度あんたが海常に視察行ってきなさいよ!それでトントンよ!」
「はあ?!」
「リコ…無理には、」
「カントクの私がいいって言ってんだからいいのよ!!」
「はあ…」

伊月くんを見ると、肩をすくめて目で諦めろと言われた。

各々買い物を済ませた私たちはお爺ちゃんに礼を言って店を出る。
箱3つ分になった荷物は、火神くんが持ってくれた。
誠凛の方のは、伊月くんが持ってる。
必然的に私とリコは手ぶら。

「あの…いいよ、私のは自分で持つし、伊月くん手伝ってあげて。」
「いいよ、湊。持ってもらっとけって。いつもそれ一人で持って帰ってんだろ。」
「まあ…」

でも、さっきの今でちょっと彼に持ってもらうのは気まずい。
どうせなら伊月くんがよかった。
小さく溜息をつきながら仕方なく彼の隣を歩いた。
前の二人は楽しそうに話をしているが、後ろは最早お通夜だ。
海常が恋しい。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

本当に無言のまま誠凛へ到着した。
火神くんへお礼を言ったけど、「ん」とだけ返して、練習へ合流してしまった。
黄瀬くんに聞いてた感じとは全然違うなあ。

「湊、こっち。」

リコに呼ばれて仕方なく寄って行く。
2年生組は「ああ」と笑顔を向けてくれる。
1年生たちは誰だ誰だとざわざわしている。
さっきまで一緒にいた火神くんに尋ねてるけど、「しらね。」の一言で終わっていた。

「彼女は宮地湊。今は海常のマネージャーをしてるわ。」
「海常!」
「黄瀬んとこじゃん。」
「ん?宮地…?」

自己紹介をすると毎回このやり取りになるな、とテンプレ化している返しをしておいた。

「買い出しに出た先でたまたま会ったの。1年!」

リコにTシャツを投げつけられる。

「せっかくこの子がいるんだもの。稽古つけてもらいなさい!」
「「「は?!」」」
「え。」

思わず顔をしかめる。

「ちょ、私これでも海常の人間なんだけど…」
「火神くんに荷物持ってもらったでしょ!」
「おま、わざわざそのために持たせたな…!」

嫌がるのは、私だけじゃなかった。

「俺は嫌ッス。マネージャーとはいえ、他所の奴になんて。」
「火神!」
「ほら。」

私がこれきたとばかりに彼に乗っかる。
が、彼が急に「ひ」とひきつった声をあげる。
何かとそっちをむけば、背の小さい(失礼か)少年が頭に犬を乗っけて彼の真ん前に立っていた。
あれ、あんな子いたっけ。

「火神くん、せっかくなんです。見ていただきましょう。」
「な、んで、」
「黄瀬くんが仕切りに彼女の事を自慢していました。笠松さんたちも、一目置いていると聞いています。こんな機会、またとありません。」

ずい、とにじり寄ると、火神くんは顔を青くした。

「わかった!分かったから!!!」

分かられてしまった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「…えー、では…よろしくお願いします…」
「「「「「お願いします!」」」」」

火神くんも、やるとなったら本気ですることにしたらしく。
真剣な表情で挨拶を返してきた。
日向くん、よく躾けてるな。

「じゃあ、んーと、どうしようかな。ぐっぱして2チームに分かれて、ミニゲームしようか。」

3人チームが、黒子くん、河原くん、福田くん。
2人チームが、火神くんに降旗くん。

ピ、と短く笛を吹くと、圧倒的なパワーで火神くんがダンクを決める。
返すように福田くんたちもボールを戻していく。

黄瀬くんから聞いてはいたけれど、これほどまでとは。
この間の試合のDVDはまだ見られていないから、初めて1年生を見るけど
いいチームだ。

パッと見は火神くんの独壇場だけど、
黒子くんのパス回しは適格だし、何より他の3人も良い線いってる。
2年生たちが強いからあまり明るみには出ないみたいだけど、
もったいないな。

火神くんが10回目のダンクを決めたところで、ホイッスルを鳴らす。

「OK。降旗くん、黒子くんと組んで。
 河原くんは福田くんと。
 火神くんは、私とね。」
「…?」
「黒子くんのパス回しは確かにすごいけど、それだけじゃ勝てないよ。自分で持って走らなきゃいけなくなる時だってくる。1on1で、相手を抜く練習にしよう。」
「俺も、っスか。」
「火神くんは流石試合に出てるだけあって、動きも他の1年生とは違うね。でも、まだまだだよ。」

私の言葉に、かちんと来たらしい。
ぎゅっと眉間に皺を寄せて睨み付けられる。

「他の1年生じゃ練習にならないだろうから、私が相手するよ。久しぶりに、本気でやってみたくなっちゃった。」
「…後悔させてやる…です。」
「女だからって嘗めてかかってたら痛い目みるから。」

ボールを火神くんへ渡す。

「私は一応本職はDFだから、そっちボールでいいよ。」
「嘗めやがって…」
「さ、皆も。」

私は久しぶりに向けられる敵意に、ちょっと楽しくなっていた。
完全に、自分の体の事を失念していた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「今日はここまで!」
「「「ありがとうございました!」」」

リコが今日の練習の終了を報せる。
私も借りたTシャツで汗を拭って荒い息を整える。
やっぱり、ブランクがあいちゃうと昔みたいには動かない。
体力も落ちちゃったなあ。
無意識に右手が反対の肩を撫でた。

「お疲れ、湊。」
「本当。無茶振りだわ。私海常でもここまでやらないよ。」
「あら、バレると私が先輩方に怒られちゃうわね。」

愉快、と顔に書いてある。
全く困った子だ。
昔からだけど…。

彼女は中学からの友達だったので、私の事も知ってる。
だから、火神くんたちの練習見させたんだろうけど。
久しぶりの親友との会話を楽しんでいると、横から手が伸びてきた。

「わ」
「携帯。ずっと光ってるけど。」
「あ、ありがと伊月くん。」

サイレントにしたままだった。
何気なくホームボタンを押すと、恐ろしいことになっていた。

「ひ…!!」
「?」

血の気が引く、とはこのことなのだろう。
一瞬見えた着信履歴が、17時を超えたあたりから5分置きに海常のメンバーからで埋まっていた。
そして、何より恐れていた自体が。

手の中で着信を知らせる画面が、我らが主将様の名前を映している。

出たくない。
が、ここでスルーしたら明日えらいことになる。
震える手を抑えて、画面をスワイプする。

「は、はい…宮『遅い!!!!!!』すすすすすみません!!」

携帯からの笠松さんの怒号は、誠凛の皆にも聞こえていたようだ。
顔が引きつっている。

『どこほっつき歩いてんだ!!出て行ってから何時間経ってると思ってる!!』
「す、すみません、ちょっと、事情がありまして、」
『買い物は終わったんだろ!どこで油売ってやがる!?』

ああああああ完全に機嫌が悪い
どうしようこれ完全に死亡フラグ…
返答に困っていると、手から携帯がなくなった。

上を見上げると、何食わぬ顔で火神くんが自分の耳にそれをあてている。
え、何を

「笠松さん、か?」
『あ゛?誰だテメェ』

ひええええ濁点がついてるううううう

「誠凛の火神っす。」
『誠凛?』

ちょっと声が落ち着いた。
ああ、よかったありがとう火神くん。
少しでもそう思った私がバカだった。
大きく息を吸い込んだ火神くんは一息で、怒鳴るように言った。

「湊さんは預かった!!返してほしかったら自力で取りに来い!!!!」
「?!?!?!?!」

電話の向こうで笠松さんが何か言ってるけど、容赦なくブツリと通話を切った彼は
やり切ったといった顔で携帯を返してきた。

「ちょ、何してんの火神くん!?」
「や、だってこうでもしねぇと帰った時怒られるだろうし。」
「どっちにしろ怒られるわバカ!!」

リコに叱られている火神くんを見ていると、少し頭が冷えて来た。

「だ、だってここからこの時間に一人であの荷物抱えて返すわけにはいかねえし…ああいえば誰か迎えに来るだろうし、」

しゅん、とした火神くん。
ああ、私の身を案じてくれたんだ。いろんな意味で。

「ありがとう。きっと海常は大騒ぎになってるだろうから、私帰るね。」
「送るよ。」
「ありがとう。」

帰りは木吉くんが荷物を持ってくれるらしい。
リコにまた連絡する、と伝えて誠凛を後にした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「…火神くん、珍しいですね。あんなに彼女の事、嫌がっていたのに。」
「……結構長い時間1on1してたけど、勝率は半々だった。マネージャー相手に。」
「半々?」

火神が苦い顔で言う。

「半分は、取られたということですか?」
「ああ。やけに、足元軽いっていうか…買い物行った先で会ったときにも思ったけど、あいつのバランス感覚はありえねえ。」
「バランス、ですか。」
「普通なら戻ってこれないような体勢からでも立て直して向かってくる。小回りが利くのも、そのせいだ。めちゃくちゃやりにくかった。」

ぎゅ、と拳をつくる火神。
黒子はいつもの無表情で彼を見上げた。

「何より、最後に言われたんだ。」
「?」
「『確かに火神くん、すごく強いよ。でも、黄瀬くんもまだまだ伸びる。今の感じだと、次に勝つのはうちだね。』だとよ。」

どうやら、最後の最後に喧嘩を売られたらしい。
しかし、それは彼にとっていい方へ火をつけたらしい。

「ぜってえ負けねえ。」

にんまり、楽しそうに笑う火神に、黒子も薄く笑顔を返した。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

木吉くんから荷物を受け取って、電車に乗った。
神奈川に入って、一番大きい駅で乗り換えた先に、やたらと目立つ集団が。

「あれ、」
「遅いっつってんだろ!何拉致られてんだシバくぞ!」
「笠松さん…」
「おかえり、湊。」
「持つよ。」
「小堀さん、森山さん…」

手に持った荷物を3人が1つずつ持ってくれた。

「大変だったんだぞー。あの電話で黄瀬と早川があたふたし始めるし、中村は体育館飛び出そうとするし。」
「黄瀬が行ったら騒ぎになるからって必死に止めて俺たちが来たんだ。」
「そう、だったんですか…すみません、ご足労かけてしまって。一人でも大丈夫だったのに、」
「それは、俺たちが来たのは無駄だったって言いてえのか。」
「え、いえ、そういうわけじゃ、」

笠松さんはいつもの3割増し眉間に皺を寄せて先を歩いていく。
困ったな、と思っているとそっと森山さんが耳打ちしてきた。

「湊との電話が切れた後の笠松、えらいことになってたんだぞ。怒り狂って俺と小堀で宥めすかして今の状態まで戻したんだからな。」
「久しぶりだったなあ。あんな笠松。」

すこし可笑しそうに言う小堀さん。
不覚にも少しうれしくなってしまって。
ちょっとにやにやしているところを、たまたま振り返った笠松さんに見つかって更に怒鳴り声を貰うことになるのは、あと数分後。
← →
page list
Back to top page.
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -