僕と私の戦争記
「湊、チャンネル変えてもいいか。」
「いいけど。」

朝いつもと同じ時間に起きた俺は、兄貴とロードワークに30分ほど出てきた。
戻ってくると、既に朝飯の用意ができていて旨そうな匂いが腹の虫を呼び起こす。
トーストをかじりながら、なんとなくテレビのチャンネルを行き来する。
いくつか回したところで、丁度おは朝の占いコーナーだった。
変わり者の後輩がやたらと占いに煩いので、なんとなく手を止める。

≪今日の1位は蟹座のあなた!すこし足を伸ばして遠出してみるといいことがあるかも!ラッキーパーソンは、黄色いアクセサリーをした女性!≫

「黄色…」
「なんだよ、緑間今日1位か。この分じゃ、今日の練習試合楽勝だな。」
「占いは所詮占いだよ。」

兄貴と湊が軽い言い合いをする間も、おは朝の順位づけは続く。
兄貴の蠍座は5位とまずまずってところだった。
可もなく、不可もなく。

「…私たち、出ないね。」
「あぁ。」

一緒になって自分の星座が出るのを待っていると、結局最後の最後まで出なかった。
所謂ビリだ。

≪今日は何かと不運に巻き込まれる日!波風を立てない過ごし方を心がけましょう≫

「うえ〜…幸先悪。」
「同じく。」

双子の俺たちは、勿論だが星座も同じ。
テンションが下がったまま、朝飯を平らげる。

≪奇抜な色の髪をした人の近くは避けましょう。≫

最後に聞こえて来たアナウンサーのお姉さんの声に、
嫌な予感がした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「おはようございます。」
「おはよ…う、湊…」

3人で家を出て海常のすぐ近くで皆の姿を見かけた。
いつもと同じように声をかけると、いつもと同じように一番に早川くんが振り返って返してくれた。
けど。

「よお、海常。」
「兄貴…喧嘩ふっかけに来たわけじゃないんだから…」

完全にスイッチが入っている清兄の笑顔に、完全に怯えてしまって自分より小さい中村くんの背中に隠れている。
中村くんも早川くんのジャージを後ろ手で掴んでる。

「久しぶりだな、宮地兄弟。」
「どうもッス。今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」

清兄と笠松先輩が一触即発状態になっている横で、裕くんと小堀さんがほんわかとあいさつを交わす。
中村くんと早川くんは、良い壁を見つけたとばかりに二人から離れない。

「みなさん先行ってください。私はこのまま校門で秀徳のメンバーを待ちます。」
「いいのか?」
「大丈夫です。これも私の仕事ですから。」
「湊…」
「着替えてアップしておいてね。」

あやすように腕を叩くと、早川くんが少ししゅんとした顔をする。
うちは犬属性が多い。
両方大型犬だから、手は焼いてるけど。

「兄たちをお願いします。清兄、皆さんに迷惑かけないでよ。」
「わあってるっつの。」
「…裕くん、おねがいね。」
「あぁ…できるだけ早く戻って来いよ…」
「善処する…」
「おい裕也どういう意味だコラ轢くぞ。」

一抹の不安を残したまま、背中を見送る。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「真ちゃーん、そろそろ諦めようぜー」
「…人事は尽くすのだよ。」
「いや、もう着くから。」
「緑間、いい加減にしておけ。」

少ししたら向こうから派手な色の集団がやってくる。

「おはようございます、お迎えにあがりました。」
「おお、おはよう。久しぶりだな、湊。」
「ご無沙汰してます、木村さん。」
「宮地兄弟が先に来ているだろう。世話になったな。」
「こちらこそ。主に長男が大変お世話になってます。」

ぺこりと大坪さんへ礼をしたところで、初めて見る顔がひょっこりと彼の後ろから覗いた。
彼が、高尾くん。

「あれ、知り合いっすか?」
「海常のマネージャーだ。」
「宮地湊と言います。兄たちがお世話になってます。」
「湊は宮地んとこの妹だ。」
「宮地さんの妹!!」

吃驚を隠しもせずに私を真ん丸の目で見てくる。

「そいえば、その頭、二人とおんなじ色!」
「まあ、兄弟ですから…」

何となく恥ずかしくなって、無意識に髪をなでる。
と、後ろから低い声。

「黄色…」
「え、」

背、高い。
緑色の髪の彼が、私をすぐ目の前で見下ろしてくる。
す、と出された綺麗にテーピングが巻かれた指が私の髪を耳にかける。

「お、おい緑間!」
「宮地に轢き殺されるぞ!」
「あ―――!!」

慌てる木村さんと大坪さんにかぶせて、高尾くんが大声をあげる。

「黄色!!」
「え、?」
「真ちゃん、黄色だよ!」
「分かっているのだよ。湊、と言ったな。」
「あ、はい。」
「宮地、と呼ぶとうちの先輩方とかぶる。名前でも構わないか。」
「ええ、皆さんそう呼び分けるので。」

緑間くん、変わった人だって聞いてたけど。
そんなこともないじゃない。
そう思った私がバカだった。

「では、湊。」
「はい。」
「今日1日、俺の傍を離れるな。」
「………はい?」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「おい、これはどういうことだ。」
「私にも…さっぱり」

緑間くんの左腕に抱えあげられて、私は珍しく大分下にある笠松先輩を見下ろした。
後ろでは頭を抱える大坪さんと、爆笑しすぎて過呼吸一歩手前の高尾くん。
なぜか称賛の声をあげる兄。
カオスだ。

「今日は、彼女はうちで借ります。」
「ふざけんな!!!!」
「湊返せ!!!!」
「そうっス!!」
「湊はうちの妹だ轢くぞボケ!!」
「兄貴、まあまあ…」

何故こんなことになったのか。
そう考えたところで、は、と気付く。

≪奇抜な色の髪をした人の近くは避けましょう。≫

奇抜…と、周りを見回す。
今私を抱き上げている彼を筆頭に、黒や茶色以外を奇抜とするなら
うちのエースだって、兄たちだって、何より自分だって奇抜だ。

「…」
「返せ!!」

半ば無理やり緑間くんの腕から今度は早川くんの腕へ移動。

「大丈夫か、湊」
「ああ、うん。平気。」

下から中村くんの声がする。

「緑間っち、負ける気は元々なかったッスけど、尚更負けられないッス…」
「おは朝のラッキーパーソンが女性絡みだった時毎回困っていたのだ。彼女がうちにいれば万事解決なのだよ。」
「(占)いなんかの為にうちの大事なマネージャーや(れ)(る)わけないだろ!!」

ああ、波乱の予感…

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「で、では…海常高校対秀徳高校の練習試合を始めます…礼、」
「「「「お願いします!!!!!」」」」

おいおい、いつもの顔じゃないって…
海常メンバーはあの小堀さんまで目がイっちゃってるし
早川くんに至っては小堀さんを押しのけてジャンプボールにまで出てくる始末だ。
相手は、緑間くん。

「負けねえ!!」
「こちらも同じことなのだよ。」
「…いきますよ」

ピ、とホイッスルを吹いてボールを高くあげる。
試合の始まりだ。

うちのスタメンは、笠松さん、小堀さん、中村くん、早川くん、黄瀬くん。
珍しく森山さんはベンチスタート。

「よかったんですか?」
「ん?」
「スタメン、ご自分から外れたでしょう。」
「あー、まあ…俺が出るっつったって、他の奴らが変わるとは思えねえし、笠松を外すわけには行かないしな。中村も器用なやつだし、大丈夫だろ。」
「はぁ…」
「それに」

ずい、と下から覗き込まれる。

「?」
「こんなことがないと、湊の横にずっといるのも難しいしな。」

森山さんの声に、思わずきょとんとする。

「いつもはお前の隣、2年のどっちかがいたろ。」
「そう、ですね。」
「それに今年は黄瀬が入って、尚更お前の近くは居辛くなっちまったし。」
「そうですか…?」
「ああ、隣キープするのがって話な。」

ぽふ、と頭を撫でられ思わず目を細める。

「折角だから、今日くらいはここにいてもいいだろ?」
「はあ…」

何となく気の抜けた返事になって、森山さんに苦笑いを返される。

「お前…先輩の珍しい甘えなのにスルーすんなよ。」
「ああ、すみません。でも、本当珍しいなって…私、森山さんに他の女の子みたいに声かけられた事なかったんで。」
「お前は防御が固いしな。」

少しだけ、体重をかけてもたれかかられる。
何となく、私も返すとピクリと肩が揺れた。
迷惑かな、とすぐに体を元に戻すと、あわあわされた。

「あ、や、ちが、湊」
「?」

首をかしげると、森山さんが視界から消えた。

「森山さん!?」
「森山テメェ試合出ずに湊に何ちょっかいだしてんだ!!」
「か、さまつ…」
「森山轢く。木村、パイナップル。」
「ほい。」
「宮地、ちょ、やめろ!てかマジでパイナップル出て来たの初めて見たわ!!」

ベンチから後ろ向きに落とされた森山さんに手を差し出す。

「大丈夫ですか、森山さん…ああ、顔赤くなっちゃってますよ。」
「湊…俺の味方はお前だけだよ…」

そっと赤くなっているところを触りながら、応急処置にと置いてあったボトルを当てる。
試合を再開したコートから、黄瀬くんのダンクが決まった音がした。
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