アングラ・シンデレラ
▼見つからないガラスの靴
「カズマサ。」
「あ、ボス。お疲れさまです。」

ぼんやりさっきの女性のことを考えていると、見回りの途中であろう白ボスがインフォメーションへ立ち寄ってくれた。

「どう?仕事。」
「ここなら迷子になりませんから。インフォメーションの仕事はいいですね。」
「あははっ、クラウドの苦し紛れの案もカズマサには丁度よかったね。」

普段迷子になった僕を探す担当になってしまっているクラウドさんが、今日は有給でいない。
かわりに誰が探すかという話で揉めに揉めて(僕が迷子にならない、という話は一切あがらなかった)、結局なすりつけあった結果『僕を閉じ込めておく』という案が採用された。
でも流石に仕事をしない訳にはいかないし、僕は下っ端だから1日を潰せるほどの書類仕事もない。
結果、インフォメーションでの迷子・落とし物担当をすることになった。
さっきも言ったけど、ここならカウンターから出ないし、少しの書類仕事も奥に置いてあるデスクでできる。

「なんなら、ここの専属になる?」

壁に貼ってある【駅員募集のおしらせ】を指さしながら、いつもの笑顔で僕に言った。

「やめてくださいよぉ。」
「じょーだん。カズマサも数少ないバトル要員だからね。トレインに乗ってもらわないと困る。」

白ボスの言葉にホッとした。
ボスは両方とも本心か冗談か分かりにくい。
本当にインフォメーション付けにされたらたまったもんじゃない。
バトル要員になりたくて、僕は駅員になったんだから。
腕はまだまだだけど、バトルトレインには乗っていたい。

「でも、なかなか人来ないねぇ。」
「あ、やっぱり来てないんですね。採用されないだけかなって皆で話してたんですけど。」
「面接にも来てないよ。いい加減人入れないと困るんだけどね。」

駅員の仕事は、そこそこハードだ。
特にインフォメーションは迷子対応でこどもの相手もしなくちゃいけないし、駅の構内の見回りや時には酔っ払いとか面倒な対応も必要になる。
しかもライモンの駅員は特別で、いざとなったらバトルトレインに乗らねばならない為程々の強さが求められる。

「面接に来られたら、僕が相手をするんですか?」
「そうなるね。」
「げぇ…」

面接も筆記も全てパスすれば、残るはバトル審査だけ。
そのバトルは、基本的にその時の一番の下っ端が担当する。
つまり、今は僕。
勝てばもちろん合格だけど、負けてもボスたちがOKを出せば合格になる。
自分で言うのも何だけど、トレインに乗る僕らはバトルでは社内上位だ。
僕もひとつ先輩は運転手で、バトルトレインの常駐者しゃなかったから白星をあげて合格をもぎとっている。

「カズマサは方向音痴だけど、バトルの腕はそこそこあるもんね。」
「…それは、喜んでいいんでしょうか。」
「あはは。でも、きっと普通の人じゃ、カズマサには勝てない。ぶっちゃけ、めんどくさい。」
「負けて入る場合は、ボスたち見てないといけませんもんね。」
「一番下がバトルトレイン乗りの時は、いつもそう。いる人たちで決めてくれればいいのに。」
「腐ってもボスやろが。仕事せんかい。」

背の高い白ボスの向こう側から聞こえた訛った言葉に、ボスの向こう側を覗く。

「クラウド。」
「ラムセスが探してましたよ。ダブル出発やて。」
「どっち?」
「スーパーがそう簡単に動くはずないやろ。」
「ちぇー。ノーマルかぁ…」

がっかり、と分かりやすく肩を落とした白ボスは、僕に一言じゃあねと声をかけてバトルトレインが発着するホームへ向かって歩き出した。

「どうや?仕事は。」
「順調ですよ。クラウドさん、今日お休みだったんじゃなかったんですか?」
「これから出掛けるとこや。言伝は、サービス。」

ラムセスに捕まってな、と肩をすくめる。
クラウドさんに限った話じゃないけど、私服って見慣れないな。

「しっかし、ここなら毎日お前探しにパトロールせんでもよくなんなぁ。」
「やめてくださいよ、白ボスにも同じこと言われたんですから。」
「冗談やんか。貴重な正規バトル要員をこんなとこで取られるなんて、たまったもんやないわ。」

クラウドさんは、駅員の中でも古株だ。
ボスにもクラウドさんにも(冗談とはいえ)言われてしまうなんて。

「いっそインフォメーションに異動しようかなぁ。」
「おいおい。」
「そしたら、毎日あの子みたいに可愛い子にニコニコしてもらえるのかなぁ。バトルメンバーは、男ばっかりだしなぁ。」
「どういう意味や。…なんや、あの子って?」

聞き漏らさなかったクラウドさんに、僕はさっきあった事を話した。

「なんやチビッコかいな。やっとカズマサにも春が来たか思ったんに。」
「一緒に来られた方も、美人さんでしたよ。」
「おかんか?」
「いえ、多分ですけど他人だと思います。お姉ちゃん、とは呼ばれてましたけど、帽子の特徴を教えてくれたのは女の子でしたし。」
「ほぉーん…」
「カナワに行くって言ってましたよ、女の子。」
「わしもこれからカナワに用事なんや。もしかしたら、会うかもな。」
「その子は、ヒトモシのポシェットをしてましたよ。」

その一言にぴくりと眉を動かしたクラウドさんを見て、お客様の事を話しすぎたかと思ったけど、どうやら引っかかったのはそこじゃなかったみたい。

「ヒトモシのポシェット…?」
「え?ええ。…どうしたんですか?」
「いや、何でも。そんじゃ、わしもそろそろ行くわ。頑張れよ。」
「あ、はい…」

ひらひら手を振って、クラウドさんは去っていった。

「…何だったんだろ?」

白ボスに採用の話を聞いたからか、クラウドさんが意味深に去っていったからかは分からないけど、その日は一日募集要項の乗った張り紙が自棄に目に入った。
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