中途半端な だから | ナノ
Kobori side

世間は狭いものだ。
俺はそれを今まさに痛感している。

帰りに母親に頼まれたおつかいのために立ち寄ったスーパーで、
今日の帰りに見た彼女を見かけた。
きょろきょろとあたりを見回して、店員さんが通りかかる度話しかけようとしては失敗していた。
早川や中村の勉強を見てくれていると言っていたし、俺が役に立てるなら、と彼女の方へ向かった。

「君。」
「!」

話しかけようとして、名前を知らない事を思い出した。
仕方なく肩を優しく叩いて話しかけると、大袈裟なまでにびくりと反応して俺を振り返った。
少し怯えていた目が、俺を見て数秒すると少し和らいだ。

「あ…」
「何か探し物?俺でよければ探すの手伝うよ、店員さんに話しかけ辛いんだろ?」

俺が言うと、彼女は先ほどよりも何倍も困った表情を浮かべている。
何かまずかっただろうかと自分の言葉を振り返るも、特におかしな点はなかったように思う。
首を傾げていると、やっとこさ彼女が言葉を発した。

「ごめんなさい、もうすこし、ゆっくり、おねがいします。」
「え?」

そんなに早口だったか、とも思ったが彼女が言うならそう聞こえたのだろう。
俺はゆっくり言い直した。

「探し物なら、俺が一緒にさがそうか?」
「!」

今度はちゃんと聞き取れたようだ。
ぱあ、と表情を明るくして携帯を操作し始めた。
何だろう、と思っていると少ししてから画像の写った画面を向けられた。

「…醤油?」
「soy sauce.」

やけにいい発音で繰り返された。
とりあえず、醤油がある棚へ案内する。

「醤油なら、ここだけど…」
「……」

沢山あるそれらを見て、固まっている。
どうしたものか、と頭をかいた。
とりあえず濃口と薄口を手に取って、彼女へ向ける。

「どっちがいい?」
「…」

尋ねてみるものの、ただただ困った表情を浮かべるのみ。

「…今日の晩御飯、何?」
「に、煮つけ…?」

どうして疑問形なのだろうか。
首を傾げると、彼女はまた携帯を操作してこちらへ向けた。
そこには恐らく今日の夕飯になるであろう、ぶり大根のレシピが表示されていた。
俺は薄口の方を棚に戻して言った。

「レシピ通り作るなら、こっちの方がいいよ。」
「?」
「薄口だと、味が濃くなっちゃうんだ。」
「うすい、のに?」
「醤油は薄口の方が塩分が高いんだよ、実は。」

出来るだけゆっくり、聞き取りやすくを目標に言葉を選ぶ。
はい、とボトルを手渡すと、彼女は納得したように1つ頷いて受けっとった。

「ありがとう。」
「いいえ。」

にっこり笑うと、彼女も笑顔を返してくれた。

△▼△▼△▼△▼△▼

次の日。
いつもと同じように森山と笠松と一緒に昼休みを過ごしていると、教室へひょっこり見知った顔が覗いた。

「あれ。」
「早川?」

笠松が気が付いて、一緒に首を傾げる。
何かあったのかな。

すぐに俺と目があって、早川は俺たちからは見えない誰かに向けて話をしているようだ。
こっちを指さしたあと、あいつの隣からひょっこりと別の顔が。

「あ。」

思わず声をあげると、むこうもぱっと笑顔を作って早川に何か言っている。
俺が近寄っていくと、森山と笠松もなんだなんだと着いてきた。

「やあ。」
「こんにちは、小(堀)さん。」
「こんにちは。」

ぺこりと軽く会釈する早川に倣って、彼女も頭を下げた。

「Is it correct in him?」
「Yes,thank you Mitsuhiro.」

英語で会話したあと、彼女は俺に向き直った。

「きのうは、ありがとうございました。」
「ああ、いや。」
「たすかった、です。ほんとうに、こまってたから。」

たどたどしい日本語。
後ろへ無理やりくっつけたような敬語。

――まるで、誠凛の火神のような。

そう思ったところで、何となく合点がいった。

「もしかして、日本語、苦手?」
「…やっぱり、へん、ですか。」

少し困ったように眉を下げる彼女に、あたふたする俺。
早川が隣からアシストを入れた。

「こいつは橘ナツメ、オースト(ラ)リア人と日本人のハーフです。」
「ハーフ…」
「ついこの間までオースト(ラ)リアに居て、父親の仕事の関係で日本へ戻ってきたそうです。母親が日本人なんですけど、父親に合わせて英語で話すので、日本語は全く話せなくて。最近やっと普通の会話な(ら)、多少でき(る)ようになってきたんです。」

この話をしている間も、彼女はついてこれていないらしく早川と俺の間を視線が行ったりきたりしている。

「ナツメか(ら)昨日の事聞いて、ちゃんと(礼)が出来なかったって言ってて。(俺)のチームメイトだったって言うので、きっと先輩たちの(誰)かだ(ろ)うと思って連(れ)て来たんです。」
「そうだったのか、別に気にしなくていいのに。」

俺が言うと、彼女はぶんぶんと首を横に振って俺に箱を1つ握らせた。
コンビニでよく見るチョコレートの箱。

「とっても、たすかりました。いつもは、充洋か真也がたすけてくれるから。」

ぺこりと律儀に頭を下げた彼女に、思わず笑ってしまった。

「ご丁寧にどうも。俺は小堀。よろしく、橘さん。」
「よろしく、です。」

少し照れた風に笑った彼女。
何だ、どういうことだと捲し立てる森山たちに苦笑いを向けると、早川が時計を確認して言った。

「あ、すみません。次(俺)たち移動なので、もう行きます。Hey,let's go back.」
「Yeah. しつれいします。」

しっかり挨拶をして、2人は仲良く戻って行った。

「なあ、どういう事だよ?」
「あいつ、昨日の女子だよな?」
「うん、帰りに寄ったスーパーで偶々会ってさ。」
「へえ。」

小さくなっていく背中を見て、いつもは世話を焼かれる立場の早川が彼女の面倒を見ているのを感じた。
申し訳ないけど、少しおかしくなってしまって。
小さく笑うと、2人は更に首を傾げた。

△▼△▼△▼△▼△▼

「充洋のせんぱい、とってもいいヒトだね。」
「That's light. I'm pride of them.」
「うん、よくわかる。」

いつも私たちが会話するときは、私が日本語、充洋が英語を話す。
時々テストのように日本語、英語に統一することもある。
充洋も真也も、私に聞き取りやすいようにゆっくり話をしてくれるから助かってる。
充洋はちょっと滑舌が悪いらしくて、時々分からなくなっちゃうこともあるけど。

「真也も、ときどきはなしてくれるよ。キセくん?のはなしとか。」
「黄瀬…?」
「せっかくだから、キセくんにもあってみたいな。」
「ダメだ。」

はっきりと強く日本語で返ってきた否定の言葉に、思わず充洋を見上げる。

「どうしたの?」
「黄瀬は、だめ。」
「どうして?」
「どうしても。」

頑なな充洋に、私はただ口を閉ざすことしかできなくて。
とりあえず、キセくんはわたしにとってあまり良い相手ではないのだろう。
色んな意味で。

私には、英語で会話してくれる相手は充洋と真也しかいないから。
その彼らが嫌だと言うならばと、それに従う事にした。

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