俺たちの交換日記 | ナノ

湊観察日記

湊の朝は早い。

早朝5時
起きて自分の身支度を整えると、エプロンをしてキッチンへ立つ。
夜のうちに小堀が用意しておいた朝食の下準備を出して仕上げてる。
隣では頼まれた分の弁当を用意しながら着々と朝食を作っていく。

5時30分

「はよーっす…」
「はよ…」
「おはよう、ここ来る前に顔洗って来なってば…」
「んー…」
「こら!!ここで顔洗わないの!!」

一番に会うのはいつも宮地兄弟。
半分寝ぼけたままの状態の兄を引っ掴んで洗面所へ引きずっていく。

「おはようございます!!」
「おはよう。」
「ん゛―――!!」
「はよ、湊。」

そこで、笠松、小堀、早川、大坪に会う。
ここまで、毎日のテンプレだ。

「おはよう、毎日すまんな。」
「いえ、これも妹の仕事です…」

申し訳なさそうな大坪へ2人を引き渡して、自分はまたキッチンへ戻る。
止めたはずの火がついてベーコンの焼けるいい匂いがする。

「おはよう、水戸部くん。」

声をかけながらはいっていくと、笑顔で迎えてくれる。
今の所キッチンへ立つのは、湊と水戸部、小堀の3人だけ。
小堀は朝ランニングへ行く関係で、朝食の用意と晩の後片付けを担当している。

「あれ、お皿多くない?」

首を傾げると、まぁ見ていろとまた笑顔を向けられる。
そのまま朝食を水戸部へバトンタッチして、湊は弁当の用意へ専念する。
中身は、すべて統一して同じもの。
スキキライなど、持っての他だ。

「お、おはよう水戸部。お前も毎日早いな。」

身支度を終えたランニング組へ、ぺこりと頭をさげる水戸部。
朝食の乗ったプレートをそれぞれへ手渡すが、やはり多い。

「水戸部く「はよーございます!!」」

かぶせながらやってきたのは、火神。
目を丸くしていると、水戸部に優しく肩を叩かれる。
見上げるといつもの笑顔のまま火神へ残りのプレートを渡していた。

「火神くんの分だったんだね。」

にっこり笑う水戸部に、湊も小さく笑みを返した。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

順番に起きてくるメンバーに逐一朝食の用意を続けながら、湊は弁当の用意を終えた。

「ラースト、っと。」

きゅ、と巾着を結んで、物置用の机へ陳列する。
それぞれ持っていくものも決まっているので、合わせて水筒や野菜ジュースを置いて。
あとは外出に合わせてそれぞれ持っていくので、ここで終了。
エプロンを取った湊は、それを水戸部へ手渡してキッチンを出た。

「…はぁ〜。」

朝から見ていないメンバーの数に、溜息が漏れる。
2,3年の時よりも、格段に増えている。
毎日起こしに行かなければならなかったのは、今までは若松や劉くらいだったのだが
1年生が来てからの数日、ここだけで大分時間を取られるようになった。

まずは、3階の2年生から。
一応は、毎日数度ノックして声をかける。

「若松くーん、時間だよー。」

無反応。
再度溜息をついて、ドアを開ける。

「若松くーん?」

カーテンがあいたままの部屋に、燦々と太陽が照り付けているのにそれでも彼は眩しそうにしながらも布団から出てこない。

「若松くん、そろそろ起きないと時間ー。」

揺すってみるも、うざったそうに眉を寄せて更に布団へ潜ってしまう。

「若松くん、若松くんったら。」

呼んでみても、反応は変わらない。
仕方なく、そっと少しだけ布団をどけて顔を近づける。
ささやくような甘い声を意識して、言う。

「孝ちゃん、起きて…?」

カッと目を見開いてがばりと起き上がる若松にぶつからないように、素早く体を起こして見下ろす。
真っ赤にまったまま固まる若松に、三度目の溜息。

「おはよう、若松くん。」
「おま、それやめろって言ってんだろ!!」
「起きないのが悪い。」
「他にやり方あんだろーが!!」
「これが一番効果的なの。てか、1年やり続けてまだ効くってどんだけ純情なの…」

さっさと用意しなよ、と言い残して部屋を出て、3つ隣を同じようにノックする。

「劉く―――ん、あーさー。」

強めに叩いてみるものの、こちらも同じ。
がちゃりとドアを開けて、覗き込む。
若松の部屋とは対照的にぴっちりと閉められたカーテンに、意地でも起きないという意思表示を感じる。

「劉くん、起きて。」
「阿〜…湊?」
「おはよう、もう時間だよ。講義遅れちゃう。」
「不想起来(起きたくない)…」
「はいはい、早上好(おはよう)〜」
「冷(さむい)!!!」

ばがりと問答無用で引きはがした布団に、2m越えの巨体を縮こませる劉。
第2言語で中国語を取っている湊は、簡単な会話ならできる。
劉もそれが嬉しいのか、湊によくなついていた。

「うう…殺生アル湊…」
「どこでそんな単語覚えてくんの。」
「福井。」
「うん、ごめん聞いた私が悪かった。」

のそりと起き上がった劉へブランケットをかけて部屋の外へ押し出す。

「ほら、早く用意して。着替えるのは顔洗って歯みがいたあとだよ!今目離すと2度寝するんだから。」
「是ー…」

のそのそ歩いていく背中を見送って、吹き抜けから更に上の階を見る。
これからは桃井にも手伝ってもらおうと決心しながら、階を1つ上がった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「「暴力反対ー…」」」
「どんだけ呼んでも揺すっても起きないからでしょーが!!」

ぶすっとした顔で言う黄瀬、青峰、紫原。
溜息をついて大分遅い朝食を用意する。

「いただきまーす…」
「3人とも、朝ごはん食べ終わったら授業日程出しなさい。」
「何で。」
「起こさなきゃいけない日把握しとくためでしょうが!!」
「毎日でも。」
「青峰くん、あんたは自力で起きる努力を多少なりともしなさい。」
「起きれねぇよ。今までの人生で俺は学んだ。」
「明日からは桃井さんに頼むから。」
「さつきだけはやめろ!!」
「なら、自分で起きろ!!バカ!!」

偶々授業が午後からだったのでよかったものの、朝一からあるのにすっぽかしたとなれば
自分も被害を被る。
それだけは避けたかった。
もそもそ食べる3人を残して、湊は回しておいた洗濯を回収に行く。
朝だけでも2回回すことになるので、1回目は自分が干し、2回目の分は残っているメンバーの誰かに頼むことにしている。

ちらり、とリビングの鍵掛けを見る。
そこにはメンバーの名前と、それぞれ板がかかっている。
これは昨年飲み会やらなんやらで連絡もなしに遅くなる3年生に痺れを切らしてリコが作成したもので
“外出中”と“在寮”の裏表になっている。
遅くなる、夕飯がいらない場合はそれぞれ別途設けられた“遅くなります”の札をかけて朝出ていく決まりだ。
最初こそ皆不便そうにしていたが、それぞれ話があるときも無駄に寮内を探し回らなくて済むので未だ活用されている。

今日まだ寮にいるのは、先の3人と数人。
誰に頼むのが一番的確かを考えていると、上から声が降ってくる。

「あれ、まだいたの湊。」
「真也くん。」
「そろそろ準備しなくていいのか?」

言ってから湊が手に持ったものを見て、ああ、と声を漏らした。

「洗濯なら俺が代わるよ。やっとく。」
「本当?ありがとう、助かるよ。」
「本当なら当番制だしな。」
「朝は私がやってるから、いいよ。練習後の一番面倒なところやって貰ってるし。」

階段を降りて来た中村へ籠をバトンタッチして、講義へ出かける用意をする。
着替えて鞄の中身をチェックし、携帯を持って薄く化粧をしてから1階へ降りる。
ソファへ座ってテレビでニュースをチェックしていると、後ろから髪を引っ張られる。

「?」
「久しぶりに、結んであげるッス。」
「ありがとう。」

座る湊の髪を、ブランクを感じさせない手つきで束ねていく。
ゴムを手渡そうとすると、それを受け取らないまま“何か”で結ばれた。

「涼太くん?」
「やっぱ、この色が一番しっくりくるッス。」

嬉しそうに出来上がったポニーテールを撫でる黄瀬に鏡を手渡され、覗き込むと青いストライプのリボンがついたヘアゴムで束ねられていた。

「「海常カラー!」」

揃った声に、ふふ、と笑い合う。

「湊、時間!」
「やば、そろそろ行かないと。」

洗濯から戻ってきた中村に促されて慌てて荷物を持って立ち上がる。

「行ってらっしゃい、湊さん。」
「いってきます、涼太くん。」

笑顔を浮かべて手を振って出ていく湊。
勿論、札を裏返すのも忘れずに。

「あの人、本当にお前らにはロコツに態度違うな。」
「え?」
「態度ってーか、対応〜?元海常のやつ以外にはあんまり笑ってるのとか見ないし〜。」
「それは3年前からずっとッスよ。」

ちょっと得意げに笑う黄瀬に、青峰と紫原はむっとした表情を浮かべた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「あれ、山吹何で今日髪そんなのつけてんの?」
「いつもつけてなかったよね?」

大学で再開したかつてのチームメイトとカフェで屯していると、つっこまれた。

「結んでもらったんです。」
「誰に?」
「涼太くんです。」
「あー!そっか、皆バスケ部に居るんだよね!」
「仲良くやってるよ。今の所ね。」

紅と桔梗の言葉に、嬉しそうに笑って髪を撫でる湊。
2人は顔を見合わせて驚いてから、もう一度湊を見た。
耳に光るマリンブルーのピアスにしろ、髪を飾る青いリボンにしろ。
海常の彼らの独占欲は未だ治らないのかと、溜息交じりに笑った。

「あ、山吹携帯なってる。」
「?」

鞄でちかちかと光って着信をしらせるそれを、2人に断わってから耳にあてた。
向こう側は、福井だった。

「もしもし?」
『あっ、つながった!岡村、湊!』
「…?」

首を傾げると、慌てたように声が入れ替わる。

『もしもし湊か?!』
「はい、どうしました?」
『今!今どこじゃ!!』
『今日、お前何限までだった?!』
「私、3限からですけど…どうしたんです?」
『遅かったかー!』
『今日誰が残っとったか分かるか!?』
「ええと…」

出てくるときに見た札を思い出しながら名前を上げていくと、電話の向こうが静かになった。

『ダメじゃ…敦が最終手段とか絶望的じゃ…』
『どーすんだよ!』
「…とりあえず、何の用だったか聞いていいですか。」

どうやら2人は寮に忘れ物をしたらしく、それを届けてほしいそうだ。
自分たちはどうやっても寮に行って戻ってくるだけの時間はないらしい。
確かに、彼らのいる棟は寮からも一番遠い。
自分の位置と時間を確認して、鞄を漁る。

「何がいるんです?」
『え?』
「ここからなら、間に合います。何がいるのか教えてください。」

手帳に頼まれた物をメモして、席を立つ。

「わかりました。…はい、はい。30分で着きます。」

電話を切って、事の行く末を見守っていた2人に謝罪を入れる。

「ごめんなさい、頼まれ物されたから一度寮戻る。」
「相手、岡村さんでしょ?いるの第7棟じゃん。間に合うの?」
「ブッ飛ばせば50分で帰ってこれる。」

じゃ、と言って走って行った湊に、2人は溜息をついた。

「あーあ。」
「笠松くんたちに見つかったらまた怒られるわよ。」
「貸し1つにしといてやりましょう。」
「そうね。」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

寮へ戻った湊は、岡村と福井の部屋へ入って頼まれ物を手に取る。
変わった時間に戻ってきた湊に残っていたメンバーは首を傾げたが、
それぞれの部屋から何かを持って出て来たのを見て、ソファに座っていた諏佐が腰をあげた。

「湊!」

引き留められて、反射的に振り返る。

「諏佐さん?」
「7棟行くんだろ、送ってやる。」

入り口に設置してある鍵箱から車のキーを出して言う。

「いいんですか?」
「でなきゃ間に合わねぇだろうが。チャリででも行く気か。」
「……」
「お前の講義棟にバイクは置いとけねえだろ。乗ってけ。」

追い抜いて出て行った諏佐に、今回は甘える事にした。
ほぼ共用になっている黒のセダンに乗りこんで、シートベルトを締める。

「お願いします。」
「ああ。」

寮に置いてあるのは、軽が1台、セダンが1台。
あとは大型2輪が3台。
それぞれ持ち主がいるが、車検なども割り勘で出して共用で使っている。
2輪の方は免許の関係で乗れるメンバーが限られるが、車は免許があっても運転手は固定になってくる。
3年生だと諏佐、森山、木村、2年生だと日向や伊月が大抵は運転する。

「ラッキーでした。諏佐さんが居てくださって。」
「それは、お前の事もひっくるめてあいつらが言う言葉だろ。」

それに、と言葉を切った諏佐に首を傾げる。

「この間の事もあるしな。」
「?」
「青峰と、桜井のこと。」
「ああ…」

数日前にやったエキシビションマッチの事を言っているのだと理解して、また前を向く。

「若松に、何となく聞いた。」
「そうですか。」
「嬉しかったよ。あいつらが、そんな風に思ってくれてると思わなかったから。」
「先輩たちが気付かないだけで、後輩は結構先輩を慕っているものですよ。」
「お前もか?」
「当たり前です。」

大学に入って関わる人数は明らかに増えたが、やはり先輩と言って一番に頭に浮かぶのは笠松、森山、小堀の3人。
いつになったって、先輩の一番は彼らなのだ。

「本当、お前はあいつらが好きだな。」
「?」
「なんでも。ほら、ついたぞ。」

30分を見て来た道のりも、車ならすぐだ。
礼もそこそこに車を降りる。
階段を上がって彼らのいる講義室を探すが、全く地形が分からない。
途中で講師たちを捕まえて道を聞きながら、やっとこさ到着した。

「岡村さん、福井さん。」

呼んでみるものの、出入り口から遠くて聞こえていないようだ。
困ったな、と思っていると丁度出て来た生徒が声をかけて来た。

「あれ、ここに用事?」
「あ、えと、岡村さんと福井さんを…」
「岡村!?」

急に大声をあげられて顔をしかめるが、名前が聞こえたようで目当ての2人が寄ってくる。

「湊!」
「早かったな、ごめんな出ていくつもりだったんだけど」
「諏佐さんが送ってくれて。」

はい、と頼まれ物が入った袋を手渡すと、中身を確認する2人。
ほっとした表情で礼を言われ、湊も安心したように息をついた。

「悪かったな、お前も講義あるのに。」
「いえ、この時間ならまだまだ全然余裕です。」

鞄を漁って、2人に飴玉を2つずつ手渡す。

「あまり根詰めてもいいことありませんよ。昨日も遅かったでしょう?」
「あ、ああ…」
「糖分補給して頑張ってください。それじゃ、戻りますね。」

黄色い髪をなびかせて去っていく彼女を見送った後、教室中が騒然となったのは言うまでもない。



7棟を出て歩き出そうとすると、クラクションを鳴らされた。
驚いてそっちを見ると、呆れた顔で諏佐が手招きをしている。

「お前、ここから歩いて戻る気かよ。」
「ここまで送っていただいたので、歩いても間に合うかと…まだいらっしゃったんですね。」
「片道だけなんてセコイ真似する訳ないだろ。」

エンジンをかける諏佐に少し笑って、また助手席へ乗り込んだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

また別の道を通って湊の講義棟の前へつけた諏佐に、今度こそちゃんと礼を言う。

「ありがとうございます。わざわざ送迎までしていただいて。」
「いつも世話になってるんだ、多少は返さないと罰が当たる。」
「それ、誰かにも言われた覚えがあります。」

ぽふ、と頭をゆるく撫でられる。

「行って来い、気をつけてな。」
「はい、ありがとうございます。」

ひらりと手を振って別れた2人に、またありもしない噂が立つまであと―――

(ねえ、宮地さんの彼氏って背高い!?)
(え?ああ、まあ…(低くはないよな、うち巨人族多いから霞むけど))
(黒髪の!)
(車運転してた!)
((いつの話だろ…)まぁ、いつも大抵買い出しの時とか乗せてくれるけど…)
(((やっぱりそうだ!!!)))
(…?)

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