俺たちの交換日記 | ナノ

桜と新入生

とある年の4月某日。
校門の所に並ぶ桜並木は既に半分は葉桜になっており、桃色の花びらも地に落ちてしまった。
名残惜しい気持ちを少し引きずりながら、高校時代から愛用しているバインダーと共に約束の場所を目指す。

湊がここ、虹彩大学に入ってから早くも1年が過ぎた。
敬愛する先輩3人が仲良く同じ大学に落ち着いた事を知って、結果的に追いかける形で入学した。
3年間を共にした早川、中村も学部は違えど同期として一緒に入学式に出席した。

大学こそはバスケから離れると息巻いていたのだが、入学式からの帰り道。
3人で歩いているところを笠松たちに見つかってしまった。
そのままあれよあれよという間に入部届を書かされ、マネージャーの継続が決定した。

湊がバスケ部を避ける理由はいくつかあったが、高校時代のものとは別だった。
高校では、バスケにいい思い出がなく楽しくもない、ましてや自分がプレーすることもできない男バスに何故入らねばならないのかという気持ちが一番だった。
だが、笠松や小堀、親友とも呼べる中村と早川、やけに懐いてくる黄瀬、そして自分を何よりも大切にしてくれる森山のおかげでそれは吹っ切れたのだ。

なのに、何故バスケ部を避けるのか。

大きな理由は、部を構成するメンバーにあった。
湊の1つ上、つまり森山たちと同期のメンバーには他でもない自分の兄もいたのだ。
勿論バスケ部に所属し、かつては敵同士だった笠松たちとも仲良くやっていると聞いていた。

部内に兄がいる。
それだけで湊にとってはマイナスポイントだったのに、同学年では双子の片割れも入学している。
彼もまた、兄たちを追ってバスケ部へ入部した。

なぜ大学に入ってまで兄たちの面倒を見なければならないのか。
(色んな意味で)手がかかるのは、森山だけで十分だと
当時はそう思っていた。

ところが、蓋をあけてみれば部の人間は皆知った顔ばかりだった。
話こそしたことがないメンバーもいたが、それぞれ高校時代のIHやWCで見る面々だ。

奇跡ともいえる確率ではあるのだが、全国各地の強豪校のレギュラーたちが揃うバスケ部は
確かに戦績は異様によかったが、その分手もかかった。
高校から継続で未だに監督と呼ばれるリコと2人で、必死に先輩や同期たちの手綱を握ってきた。

「……まったく。」

ぱらりとバインダーに挟まった紙をめくる。
何枚かに分けて振られているのは、今年の新入生名簿。
もう今までの段階でお分かりいただけるだろう。
今年の新入生たちもまた、大会で名を馳せた強者たち。

―――過去3年間で、一番手がかかる代でもある。

キセキと呼ばれた面々をはじめとして、彼らの相棒や仲間たちの名前が並ぶ。
唯一入っている女子の名前が、今の湊を支えていた。

「湊さ――――ん!!!」

元気な明るい声で呼ばれ顔を上げると、ぶんぶんと手を振っている大型犬の姿。
苦笑いながら、向かう足を速める。

「久しぶり、涼太くん。」
「お久しぶりです、湊さん!」
「元気そうだね。幸男さんたちも涼太くんが入ってくるって知って嬉しそうだったよ。」
「本当ッスか!」

ぱたぱたと左右に振れる尻尾の幻を見ながら、彼の後ろへ目を移す。

「久しぶり、な人もいるね。」
「お久しぶりです。」
「一昨年のWCが最後だったもんなぁ、本当久しぶり。」
「高尾、言葉遣いを改めないと宮地さんたちにまた怒られるのだよ。」
「いいよ、高尾くんはこうでなくっちゃ。」
「湊ちゃん分かってる!」

楽しそうに笑う高尾と、諦めたように眼鏡をかけなおす緑間。
その後ろでは、黒子にのっかった紫原を押しのける火神。
さらにその向こうでは、眠そうな青峰に桜井と、今年度唯一の女子桃井が世話をやいている。

「賑やかになりそうだね。」
「そうっスね。」
「それじゃあ、早速だけど部の方へ案内するね。諸々の説明は歩きながらにしようか。」

湊がもと来た道を歩き始める。
1年生たちがついてくるのを横目で確認して、紹介がてら部の事を話す。

「多分、先輩たちがいるからある程度は知ってると思うけど念のためにいくつか話をしておくね。
 うちの部は、3年生10人、2年生11人にマネージャーの私と監督のリコ、計23人で構成されてるの。
 うちには軍分け制度がない代わりに、3つのチームに編成されてるの。
 チームについては着いてからちゃんとした説明はするけど、1チームに1人キャプテンがついてて、まあ、簡単に言えば1チームが1つの小さな部だと思ってもらえればいいよ。
 ここまで、何か質問はある?」
「湊さんは、1人で全員分のマネージャー業をやっているんですか?」
「そうだよ。」

桃井の問いに、あっけらかんと答える湊。
同じくマネージャーとして6年間仕事をしてきた桃井にはその大変さがわかるため、目を丸くして閉口した。

「他は?」
「チームに分かれてるってことは、俺たちもその3チームのどっかに入るっつーことか?」
「そうだよ、どこに入るかは私とリコ、後はキャプテンたちで話し合って決める事になってる。」

火神に返事をして、他にもいくつか一問一答を繰り返す。
10分ほど歩いたところで、湊が足をとめた。

「これ以上の事は、中に入ってからにするね。先輩たちが待ってるから。」

ドアを開けると、コート3面分の大きな体育館。
響く掛け声やドリブル、スキール音に1年生たちは目を輝かせた。
自分たちの時もこんな風だったな、と思いながら首から下げていたホイッスルを力いっぱい吹き鳴らす。
反響したその音に、それぞれのコートでストップの声がかかった。

「チームごと整列、集合!」

リコの声に、メンバーたちが従って歩き出す。

「やけに統率のとれたチームですね…」
「うちではリコが最強だからね、桜井くんも気を付けた方がいいよ。」

小さく耳打ちして、1年生に隣に並ぶように指示を出す。
呼ばれて前へ並んだところで、リコが話を始めた。

「今日から新入生たちが参加するわ。と、言っても知った顔ばかりだけれどね。」
「今週は私が1年生の面倒を見ます。1週間様子を見て、来週の頭からは本格的に各チームへ組み込んでいきます。」
「見知った顔ばかりだから、自己紹介とかは今更いいわね。最悪顔と名前が一致してればいいから。どうせ今後も一緒にいるんだから、個人的なことはゆっくり知って行けばいいわ。」
「それじゃあ、第1チームから順に1年生を連れて回ります。1日交代で3チーム回るので、練習見てあげてくださいね。」
「以上、練習再開!第1チームのメンバーはこのままここに残って。」

リコの言葉に、ぱらぱらと散っていく2,3年生。
残ったメンバーの隣へ並びながら、紹介を始める。

「今日はまず第1チームの練習へ入ってもらうね。このチームはディフェンスに特化したチーム、高校なら陽泉タイプだね。キャプテンは、岡村さんに引き継いでもらってます。得点率は高くないけど、失点率は異常に低いのが特徴。」

並ぶメンバーを見ると、他のチームに比べて平均身長が異常に高い。
元陽泉の岡村と劉を筆頭に、海常の小堀、桐皇の諏佐、誠凛の水戸部などが並ぶ。

「2年の代が入ってきた時も驚いたけど、ここまで揃うと笑えてくるな。」
「言うなよ小堀。それに、お前だって楽しんでるだろ。」
「そういう諏佐だって。」

変わらない笑顔を浮かべる小堀と諏佐に、黄瀬は今にも飛びつきそうな勢いで、桜井や桃井、青峰までもが心なしかソワソワしている。
ちら、と泳がせた紫原の目線が、岡村とかち合う。

「久しぶりじゃのう、元気にしとったか?」
「…当たり前じゃん。岡ちん、また老けたっしょ。」
「老けとらんわ!」

一気ににぎやかになるその場に、湊もつられて微笑んだ。

「それじゃあ、練習の方へ早速ですが入って行きましょうか。岡村さん、後お願いしてもいいですか?」
「ああ、構わん。」
「では、マネージャーの仕事へ戻りますね。1年生は先輩たちのいう事ちゃんと聞いてね。桃井さんは、私と来て。」

選手勢を残して、桃井を連れて一度体育館を出た。
下駄箱の上に置いてあるタンクとボトルを持って、近場の水道を目指して歩き出す。
手伝うと言った桃井に、空のタンクを預けた。

「本当に、なんていうか、曲者揃いですね。」
「そうでしょ。本当、手焼いてるんだよ。部ではまだキャプテンたちがどうにかしてくれてるけど、寮ではもっとひどいんだから。」
「寮…?」
「あれ、聞いてない?」

きょとりと目を丸めた湊は、何も知らない桃井へ爆弾を投げつけた。

「うちのバスケ部は全寮制なの。女子も例外なくね。」

きっと荷物ももう寮の方へ運び込まれてるんじゃないかな。
可笑しそうに言う湊に、桃井は唖然とした。

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