俺たちの交換日記 | ナノ

新旧リーダー論

数日して、湊も完全復活を遂げていた。
心配症な兄たちからもOKを貰い、いつも通り仕事へ復帰したのだが。

「……」
「時間まで、あと2分。」
「まぁ、少しくらい待ってあげようよ、今頃きっと用意してるって。」
「もう既に最初の時間からは10分遅れよ。」
「んー…」

苦笑いながら目の前の籠を見遣る湊と、イライラを隠しもしないで腕時計を見つめるリコ。

今日は、週に1回の大物を洗う洗濯日。
主にシーツやらを洗う日で、本来ならば前日までに全て洗濯物は出し切っておくことが約束なのだが。

頼んで時間を伸ばしてもらっていた桃井も、限界を感じたらしい。
籠を持ち上げて、寮内に響き渡る声でカウントダウンを始める。

「今週の―――!!!大物洗濯―――!!締め切りまで、10――!!」
「3から始めればいいのよ。」
「さつきのやさしさを踏みにじらない。」
「……湊も桃井さんも、甘いのよ。」
「はいはい。」

くすくすと笑っていると、4階の部屋の扉が2つ勢いよく開いた。
桃井のカウントダウンは止まらない。

「やばい!!こっからじゃ10秒じゃ間に合わねぇって!!」
「お前、あと30分はあるって言ってたじゃねーか!!」
「うるせえ!!」
「お先!!」
「「あっ!!」」

慌てているのは、おバカ信号機トリオ。
どうやら、洗濯物を出すのを忘れていたらしい。
黄瀬は余裕とばかりに、4階の手すりから少し乗り出し気味で洗濯を詰めた袋を高く放り投げた。
綺麗なループを描いたそれは、しっかりと湊の前に置いてある洗濯籠に納まった。

「おま、ふざけんな!!」
「狡いぞ!!」
「間に合えばいいんスよ!」
「俺のもやれ!!」
「いやーっス!!」
「シバく!!!」
「7――――!」
「あああ間に合わねえぞ!」
「おい、煩いぞ。」
「何を騒いでいるんです…」

がちゃりとドアが開いて出て来たのは、黒子に緑間。
隣通し静かな中で本を読んでいたらしい二人は、邪魔されて少しばかりご機嫌斜めだ。
だが、この二人は青峰と火神からしたら神の手にも等しかった。

がしりとそれぞれ肩を掴んで選択袋を押し付ける。

「緑間!!それ!!あっこ入れてくれ!!」
「テツ頼む!!な!!」
「嫌なのだよ。」
「…青峰くんも火神くんも、僕言ったはずですよ。」
「あ―――!小言は後で聞くから!!」
「嫌なのだよ。」
「自業自得です。」
「おしるこ!!こないだ作ったやつ気に入ったって言ってたよな!!冷たい白玉入りの!!また作るから!!」
「バニラシェイクおごってやるから!!」
「明日作れ。」
「3杯。」
「「分かったから!!!」」

ふたりの肯定に、緑間と黒子はそれぞれ袋を引っ掴んで籠へ向けて放つ。
緑間のそれは、先ほどの黄瀬が放ったものよりも更に高いループを描き、黒子が一度上へ投げ上げたそれはイグナイトで籠へ向かう。

が。
緑間はとにかく、黒子のそれはそもそも相手が取る事を前提としているもので。
桃井の持った籠を狙ったそれは、少し逸れて桃井の頭へ向かう。

「え、」
「さつき!!」
「桃井さん!!」

慌てて呼ぶと、横から出て来た影が桃井をかばって前に立ち、飛んできた袋をキャッチした。
ぼふ、と大きな音を立てて止まったそれを抱え直して、桃井にむきなおる。

「大丈夫か、桃井。」
「あ、はい…ありがとうございます、日向さん。」
「ん。」

緑間の放ったそれは隣で軽い音で籠へと納まった。
日向も自分の手の中の袋を預けて、ゆらりと4階へ目を向ける。

「黒子、火神。降りてこい。」
「「…はい。」」
「だっせぇ!」
「青峰、お前も大坪さんと今吉さんに報告入れておく。」
「な!!」
「緑間、お前も今回は咎めはしないが、あまり馬鹿なことに首突っ込むな。」
「…はい。」

しょんぼりと肩を落とした黒子と火神がぶつぶつ言いながら階段へ向かうのを見ながら、日向は深い溜息をついた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「…リコ。」
「ん?」

女3人で洗濯をしながらの雑談も、楽しいものだ。
いつもはできない話も、ここなら出来る。
そう、例えば、部員たちの話も。

「日向くん、どうしたの?調子悪いの?」
「そういえば、何か変でしたよね。なぁんか暗い、っていうか…」
「いつもの『ダァホ』もなかった。」
「そうそう。」

ふたりが首を傾げるのを見て、んー、と唸るリコ。
どうしようかな、なんて考えているのが目に見えて分かる。

「知ってるなら、教えてよ。」
「そうですよぉ。」
「…いいけど、湊は聞いてるんじゃないかな。」
「?」

揃って首を傾げた湊と桃井に小さく笑ってから、視線を手元へ戻した。

「ほら、日向くんのいる第3って、笠松さんがいるでしょう?」
「え、うん。」
「それが、何か?」
「この間日向くん、笠松さんとこ行って聞いたんだって。」
「………何を?」
「『キャプテンシーについて』」
「きゃぷてんしぃ?」

桃井が更に首を傾げるのに対し、湊が合点がいったように小さく頷いた。

「ああ、だからか。」
「何がです?」
「この間、幸男さんに言われたの。『俺のキャプテンシーって、何だろうな』って。」
「なかなかむつかしいこと聞きますね…」
「ね。私もそう思った。」
「でも、何で急に?」
「さあ…それは私にもわかんないわ。」

ばさりと洗い終わったシーツを広げて竿へかけるリコが、にっこりと笑って湊を見遣る。

「………ん?」
「そういうのは、あんたの専門分野でしょ?」
「まじか。」
「答えは教えてくださいね!」
「さつきまで…」

がっくりと肩を落としながらも、話のきっかけを探す自分に溜息が出た。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

仕事を終えた湊は、ひとまず笠松のところへ話を聞きに行くことにした。
札を見ると、“外出中”になっていたため、いつも彼が使っているランニングコースを逆走することにした。

ペースを維持しながら走っていると、半分ほど行ったところで深い青のパーカー姿。

イヤフォンをしているらしく、全くこちらに気が付く気配がない。
伏し目がちな彼に、わざわざ道を塞ぐように前へ出た。
急に出て来た足に慌てて一歩引いた笠松だったが、相手が湊だということに気が付くとフードとイヤフォンを取った。

「なんだ、お前か。」
「前は見て走らないと危ないですよ。」
「悪い。」

湊を横へつけて、走るのをやめた笠松。
息をそれぞれ整えながら、話をし始める。

「で?」
「?」
「何の用だ。わざわざ出てくるって事は、急ぎか…寮じゃ話しにくい事か。」

にっと笑った笠松に、湊も困ったように肩を竦めた。

「読まれるようになってきましたね。」
「もう5年になるんだぞ、当たり前だ。」
「そうですね。」

何から話そうか、と少しだけ思案した後。
直球で聞くのが一番だと、リコからの言葉をそのままぶつける事にした。

「幸男さん、日向くんに最近何か言われたでしょう。」
「…ああ、『キャプテンシーとは何か』か?」
「ええ。」
「……俺も、確実な答えが用意できるわけじゃないんだけどな。」

ぽつりとこぼすように話し始めた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


少し前に、キャプテン同士で話をする機会があってな。
岡村と、大坪と。ああ、今吉もいたな。

そこで、まだ高校生だった時のIHやWCの話をしてたんだ。
懐かしいな、なんて話だった。

次第に、俺たちが抜けた後の奴らの話にすり替わってってさ。
うちは、お前も込みで4人、残してっただろ。ああ、んな顔すんなよ兄貴達に殺される。
んで、その後どうしてたのかなあ、なんて話の中で俺たちの後釜を誰にするかって話をしたんだ。
大学は高校と違って4年あるし、俺たちも部活やりながら就活とか院試の勉強とかもしてくつもりだ。
それでも困らねえだろうメンバーだしな。

だが、俺たちがそうやって抜ける時間が出てくるだろう事が分かってる今。
俺たちの代が4年になる時に、代替わりは必要だなって話をした。

その時、他の奴らはどうしようか考え込んでたけど、正直俺は一択だった。
勿論、日向だ。

あいつは、高校時代に頂点に立ったチームのキャプテンだ。
今は俺の下に居るが、あいつなら第3を率いていくことだってできるはずだ。

だが、今すぐじゃない。

今のあいつには、絶対的にキャプテンとして欠けてるものがある。
それがなきゃ、第3をあいつにゆだねる訳にはいかねえ。
あいつがキャプテンになったら、俺たち3年だってあいつの下で試合に出ることになるんだからな。

「…だから、日向くんに宿題を?」
「ああ。『お前のキャプテンシーは、一体何だ』ってな。」
「………ん?じゃあ、何で私に『キャプテンシーとは何か』なんて尋ねたんです?」
「お前から見て、俺はどう見えてたのかと思ってな。」
「はあ?」

怪訝さを微塵も隠さずに首を傾げる湊に、俺は続けた。

「コートの中から見る俺と、外から見る俺は違うと思う。」
「はあ、」
「元海常の奴らから見る俺は“キャプテン”としての俺だっただろうけど、お前からしたら“部長”としての俺だっただろ。」
「…何が違うんです?」
「ま、分かんねぇなら、それでいいんだ。」
「もやっとします。」
「いいんだよ、それで。」
「腑に落ちません。」

ぶすくれた湊の片頬をぎゅっと抓って笑う。

「何でもかんでもお前に見透かされてちゃ、悔しいしな。少しくらい秘密があったっていいだろ。」
「でも、日向くん大分参ってるみたいでしたよ。」
「いいんだよ、それで。」
「あのままにしておくわけにはいきません。」
「よく観察してみろ、自分で探ることも大切だろ。」
「………性悪。」
「そうそう、お前のとこのキャプテンは性悪なんだよ。」

あっさりと肯定した俺に、湊は溜息をついた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


次の日から、湊の日向観察会が始まった。
毎日の練習は、ほぼほぼいつもと変わらない。
それを強みにしているとはいえ、恐ろしく統率とチームワークの取れたメンバーだ。

休憩をはさんだところで、仕方なくリコと桃井の所へ寄って行く。

「リコ、さつき。」
「ん?」
「何ですか?」
「この間の話なんだけど。」

他のメンバーに聞こえないように、ざっと内容を説明する。
今日の練習を見ていても、変わらないように見えた、という二人にとうとうお手上げだった。

だが、その一幕を打破したのは、思いもよらないメンバーの一言だった。

「カントク。」
「ん、ああ、火神くん。どうしたの?」
「次の3on3、日向先輩たちとやらせてください。」
「日向くんと?」

首を傾げるリコに、火神のうしろをついてきたらしい伊月がひょっこり顔を出した。

「どうしても、俺と日向と木吉とやりたいんだと。黒子と、あと1人は水戸部入れるって言ってるけど。」
「はああ?」
「…チーム跨ぐって事?」
「別にいいだろ、です。」

火神の言い分に、リコは呆れたように溜息をついた。

「あのねえ、次の練習は一応チームメンバー間の癖とかを知るためにやるのよ。」
「でも!」
「聞き分けなさ「いいじゃない、リコ。」湊…?」

言葉を遮った湊に、皆が目を丸める。

「元々のチームメイトとやるのも、昔を思い出せていいと思うの。」
「でも…」
「お願いします。」
「……」
「リコ。」
「分かった、分かったわよ!」

湊のダメ押しに、やれやれと息を吐いてメンバーたちに練習内容の変更をしらせるためキャプテンたちを呼んだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


湊が火神の提案をあっさりと飲んだのは、勿論日向の話があったからだ。
昔馴染みの誠凛メンバーとやっているのを見れば、何か分かるかもと踏んだ。
一応念を入れて桃井を呼んで、二人でコートへ視線を向ける。

リコの合図とともに、それぞれのコートで3on3が始まった。

だん、と強い足音と共にボールが選手たちの間を行き来する。
視線を左右へ振っていると、途中で何か違和感を感じた。

「…?」

隣で桃井も首をかしげている。
元々PGである伊月の声が響くコートで動く6人は、どこかぎこちない。

「…ああ、そうか。」
「?」
「ううん、何でもない。」

湊は、やっと理解した。

笠松が、今の日向にキャプテンを預けられないと言った理由も
笠松が問うた、『キャプテンシーとは何か』の答えも。

それを肯定するように、少し向こうで目が合った笠松が困った風に笑った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


練習も終わり、風呂上りの日向。
表情は、やはり冴えない。
ぼーっとしては、首を振ってきりっと視線を厳しくして、また溜息。

「あ、日向さん。」
「ちゃんとあったまった?」
「黄瀬、湊、早川も…」

番犬コンビを手伝わせながらデータ整理に勤しんでいた湊。
お茶淹れるから、ここ座れば?と促され、あまり気のりしないながらもそこへ収まった。

「俺がいちゃ、邪魔じゃねえか。」
「全然?」
「折角の機会ッスから。」
「(俺)は第2だか(ら)、話すことも少ないだ(ろ)。黄瀬は一緒だか(ら)、あんま感じないかもだけど。」

黄瀬が世話になってんな、と笑う早川に、日向は少し驚いた目で相手を見た後、目に見えて肩を落とした。

「?」
「どうした?」
「いや、何ていうか…お前も、先輩、だよなぁって。」
「おい、馬鹿にしてんのか。」
「早川センパイは、早川センパイっスよ?」
「ああ、違くて…悪い、何言ってんだろうな。」

馬鹿にしたいわけじゃなくて、なんてもごもごする日向。
やはり、笠松の言葉を気にしているのは明らかだ。

「なあ、お前らだから聞くけど。」
「ん?」
「何だ?」
「…お前らにとって、その、『キャプテンシー』って、何だ。」
「「きゃぷてんしぃ?」」

同じ方向に首を傾げた二人の向こうから、別の声。

「どうしたんだ、急に。」
「中村…」
「湊、これでよかったか。」
「うん、ありがとう。」

頼まれ物を探しに行っていた中村が、話しに加わる。
んー、と考えこんだ番犬二人に、中村は不思議そうに言った。

「別に考えなくても、決まってんだろ。」
「え…」
「ああ!そっか。そうだな。」
「うん、それ以外ないッス。」
「何だ、『キャプテンシー』って…!」

藁にも縋る勢いの日向に、3人は声をそろえた。

「「「笠松 幸男」」」
「…は、」
「ふ、ふふっ」

当たり前とばかりに言い切った面々に、日向はぽかんと口を開けた。
湊は面白くなって、耐え切れずに笑いだす。

「駄目だよ、日向くん。私たちに聞いても答えは決まってるでしょ?」
「な、んで…」
「何で、って言われてもなぁ。」
「だって!黄瀬はともかく、早川は第2で、中村は第1だろ!?それぞれ今は笠松さんじゃないキャプテンの下にいるじゃねぇか!」
「だから?」
「だから、って…」

いたく不思議そうに首を傾げる早川に、中村が解説をいれていく。

「確かに、俺たちにとってキャプテンは、大坪さんや岡村さんだ。今はな。でも、それは所詮は“キャプテン”なんだよ。」
「どういう、」

こぽこぽとお茶をまた淹れながら、湊が続く。

「キャプテンシーとは。」
「え、」
「チームを率いる力、統率力のことである。」
「それは、分かってるが…」
「つまり、私たち海常組にしたら、“笠松幸男”とは統率力そのものなのよ。」
「統率力…?」
「そう。」

はい、と差し出されたカップを受け取って、日向は首を傾げる。

「あの人だから、私たちはそれぞれ時間は違ってもついていってた。あの人の傍だったから、辛い練習もぶつかる壁も、全部乗り越えて来たの。」
「……」
「あの人の一言に助けられて、俺たちはバスケをしてた。」
「あの人の言う事だか(ら)、(俺)たちは信じて来た。」
「俺は、笠松センパイのいう事しか聞かないッスよ。」
「それは威張ることじゃないだろ。」

中村に注意を入れられて頭を掻きながらも、黄瀬はつづけた。

「まあ、とどのつまり。今の俺たちを作るのはあの人だって事っス。」
「…それが、お前らの思う、キャプテンシーってこと、か。」
「それは、誠凛の人たちも一緒なんじゃないんスか?」

思わず目を向けると、思い出すように目を閉じて米神に指を当てた。

「火神っちも今日言ってたッス。『なんか、日向先輩の感じが違う』って。」
「は…」
「ほら、今日誠凛だけで3on3やってたじゃないッスか。」
「あ、ああ。」
「あれが終わった後、聞いたんスよ。どうだったって。そしたら、」



『なんか…昨年までの日向先輩じゃねえ。』




日向は、目を見開いた。

「俺じゃ、ない…?」
「日向くん、幸男さんの下に入るって決まった時から言ってたよね。『学ぶことはいくらでもある』って。」
「ああ…」
「確かに、高校時代から幸男さん自身キャプテンシーは高く買われてたけど。でも、誠凛のメンバーがずっとついて行ってたキャプテンは、幸男さんじゃないでしょ?」

分かるような、分からないような。
日向は、混乱してきていた。

「良いところは吸収したらいいと思うよ。良い事だと思う。私の目から見ても、日向くんになくて幸男さんにあるものも沢山みつかる。」
「ああ。」
「でも、誠凛の人たちがついて行ってた背中は、それがない“日向くん”だったんでしょ?」

やっと理解できたようで、はっとしたように息をのんだ。

「目標があることは、いい事だ。でも、それはお前のいいところを潰すってことじゃない。」
「そうそう。」
「日向には、日向にしかない良いとこがあ(る)と思うぞ。」
「そーそー!少なくとも、笠松センパイより、後輩へのアタリがソフトッス!!」
「ほ〜ぉ?言ってくれるじゃねぇか。」

楽しそうに言い切った黄瀬の頭へ、ずしりと腕が乗っかった。
ぐえ、と苦しそうな声と共に現れたのは、元海常の3年生。

「笠松さん。」
「おお、ほら中村。頼まれてた本。」
「ありがとうございます。」
「買い出しのついでだ、構わねえよ。」

先輩をパシらせるなんて、と口を開こうとした所で、湊がそれを咎めるようにひらりと手を振った。
引っこんだ言葉と共に、思い直す。

海常のチームワークや、それこそ笠松のキャプテンシーは、こういう普段の関係からも成り立っているものなのだ。
海常は7人それぞれ仲はとてもいいが、“なあなあ”な関係では決してない。

「で、日向。」
「っはい。」

びくりと肩を揺らしながら答えを返すと、笠松が黄瀬の頭へ肘をついたまま問うた。

「見つかったか、答えは。」
「…正直、あんまよく分かんないってのが本音っすけど。でも。」
「“でも”?」

日向は一呼吸置いてから、笠松をソファから見上げた。

「俺には、俺のキャプテンシーが、ありますから。」
「それがお前の答えか。」
「はい。」

日向の答えに、ややあってから満足そうに笑った笠松。

「俺の後釜は大変だぞ。置いてくのが、“これ”だからな。」
「俺は笠松センパイのいう事しか聞かないッスよ!」
「ウルセエ、馬鹿。」

雑にがしがしと黄瀬の頭を撫でてリビングを去った笠松に、湊は小さく笑った。

「幸男さん、楽しそう。」
「…そう、かな。」
「海常で、真也くんにキャプテン譲るって決まった時と同じ顔してた。」
「えっ、」

驚いたように中村へ顔を向けると、既にそこに彼の姿はなかった。

「真也くんも、3年前同じ話してたよ。『キャプテンシーとは何か』って。」
「中村も…」
「壁が大きいと、大変だね?」
「越える壁なら、高い方がずっと楽しいッスよ。」

事も無げに言い切る黄瀬に、日向は苦笑いを向けた。
既に1年後が心配になるものの、日向の表情は晴れやかだった。

prev / next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -