俺たちの交換日記 | ナノ

本気はここから

昼食を食べ終わって黄瀬たちを一頻り構った後は、早めに戻るからと6人と別れた。
一度髪を括りなおそうと解いた時、折角いたのだからまた早川に結んでもらえばよかったと少し後悔した。

控室へ入ると、一番乗りだと思っていたが1人、既に戻ってきていた。

「はやいですね、紺先輩。」
「ん、まあね。」
「何かあったんですか?」
「いや、あったわけじゃなかったんだけどね。」

少し間を置いてから、小さく言った。

「………いやな、予感がしたから。」

紺の言葉に、湊も顔を少ししかめた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

所変わって、紺と別れた桐皇メンバー。
先に戻ると言った紺にべったりくっついて引き留めていた桃井だったが、3年生組に引きはがされ、渋々と元の6人で歩いていた。

「もっと紺先輩と話出来ると思ったのに…」
「まあ、今日の試合終わったらまた話くらいできるやろ。」
「そうそう。」
「紺先輩だって試合の用意あんだよ、困らせんな。」
「分かってますよぅ!!」

真っ当な意見を並べられて、先輩3人にむくれた表情を向けた。
トイレへ行ってから戻るというメンバーと別れ、桃井はひとり観客席へ戻るべく歩みを進めていた。

「あれえ、桃井さん?」

声をかけて来たのは、中学時代の同級生だった。

「えっ、あ!久しぶり!」
「久しぶりだね!どうしてここに?」
「えと、私の高校の先輩たちがチーム組んで出てるの。それの、応援に。」
「…へえ。」

桃井の言葉を聞いた瞬間、彼女は小さく笑みを浮かべた。

「あのね、私も試合出てるんだ。」
「あっ、そうだよね!ジャージだし…て、事は勝ち進んでるんだね!」
「うん。」

少し目を伏せた彼女に、桃井は首を傾げた。

「どうしたの?」
「…実は、ね。私たち、ここへリベンジマッチに来てるの。」
「………え?」
「あのね―――――」



話を聞いた桃井は、ただただ目を見開いた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

30分後に始まった3戦目。
湊たちが当たったのは、近畿地区の大学生のようだった。
お願いします、の言葉とともにメンバーがコートへ散らばる。

「…あ?」
「何でまた…」

“温存”の言葉通り、やっと動く気になったらしい紅がセンターラインへ残る。
湊を含むメンバーたちは、それぞれ散らばってボールを取りに行く気はあるようだが
体や足は完全に紅が取る事を前提にして相手コートへ向いている。

「お手並み拝見、と行きましょう。」

リコの言葉が聞こえたかのように、紅が不適に笑った。

鳴らされたスタートのブザーと共に、ボールが真上へ投げ上げられる。
ぐ、と体勢を低くしてから高く跳びあがり相手より早くボールへ触れた。

「ぉらア!!!」
「「「!?」」」

誠凛メンバーの知るいつもの冷静な紅からは聞くこともないような声。
若干ドスの聞いた声で響いたそれに、他の4人も同時に走り出す。
受けたのは、若草だった。

「速攻!!外すな!!」
「勿論、なのだよ。」

紅の声に、若草が3Pラインから一度バウンドさせてシュートモーションへ入る。
席から乗り出すように前のめった大坪や木村の隣で、緑間と高尾が小さく笑った。

綺麗な放物線を描いたそれは、高さは勝てないとしても緑間を彷彿とさせるものだった。
にんまりと笑ったあと、ループの先を見届けないままくるりと踵を返した。
乾いた音をたててネットをくぐったそれは、一度も枠へあたることなく床へてんてんと転がる。
わあ、と湧いた観客席の端で高尾が吹き出すように笑った。

「ふはっ、あんなとこまでまるっと真ちゃんじゃん。」
「…俺はあんなにふてぶてしくないのだよ。」
「どの口が。」
「…煩いのだよ。」

愉快、を滲ませる2人に、先輩3人は驚いたように言った。

「ちょ、おいどういう事だよ!?」
「なんで若が、お前の3P…」
「先輩たちが引退してから、うちのマネージャー業手伝ってくれてたんスよ。」

裕也の言葉に、そちらへ視線が移る。

「で、面白がって3P勝負するとかなんとか言って毎日残ってやってるうちに、」
「真ちゃんも情が移っちゃって、ガラにもなく先生やってたんスよ!」
「SGだけあって筋自体は悪くないが、まだまだなのだよ。あんなぎりぎりからの3P。」
「ははっ、厳しいなセンセー?」

緑間の言葉に反応したのは、黄瀬だった。

「SG…?」
「そだけど?」
「え、どういう事っスか。あのチームは5人しかいないし、メンバーチェンジはなかったって、」
「うん。」
「あのチームのSGは、湊さんでしょ…?」

不思議そうに言われた言葉に、意外そうに高尾は目を丸めた。

「何も聞いてないんだな、あんたら。」
「え、」
「若草がただ話好きなだけだろう。普通ならあんな事の後なら話したがらないのも無理はないのだよ。」
「そ、かなあ。」

んー、と考えたあと、俺の知ってることは確かに少ないかもだけど、と前置いて続けた。

「あの5人が“カメレオン”なんて呼ばれてたのは知ってる?」
「あ、ああ…さっき言ってたッス。」
「呼び名の理由は大きく2つ。」
「2つ…?」

黄瀬の目の前へ、綺麗に伸ばされた指が2本突き出される。

「1つは、湊ちゃんのあの変声とコピー。」
「そして2つめが、彼女らのする、“ポジションチェンジ”なのだよ。」
「ポジションチェンジ?!」

あげた声に、高尾はおかしそうに笑ってつづけた。

「湊さんは、SGじゃねーよ。」
「な…」
「……なるほどな。だからか。」
「え?」

納得したようにぽつりとつぶやいた森山の声に黄瀬が振り返る。

「どういう事っスか?」
「あー、覚えてっか。一番最初鈴ヶ丘の話聞いた時の事。」
「ああ、はい。」
「その時、何ていわれたか。」
「何て…?」

もう3年も前の話だが、必死に記憶を呼び戻す。



『私はその≪幻≫と呼ばれる年に確かに鈴ヶ丘のスタメンでした。背番号は7。ポジションは、その時はSGでした。』



「……“その時は”…」
「はい、よくできました。」
「また今度っつって話してこねえから忘れてたけど、そういう事か。」
「そーっす。湊ちゃんたちに、本物の自分のポジションは存在しないんすよ。」

知ったようにへへん、という高尾が、反対側から宮地に殴られている。
試合へ目を戻すと、スコアはもう既に何度かゴールを決めている事を示していた。

紺がドリブルで攻めあがるのを、相手がブロックして奪い返す。
紅が振り返って声をあげる。

「桔梗!!!」

ゴール下へ立っているのは、桔梗ただひとり。
相手はディフェンスを残して3人で上がってきていた。
なんとなくぼんやりしていた彼女が、くあ、と小さく欠伸をしてから半歩足を引いた。

「はいはーい。」

桔梗自体背が高いわけではないが、腕を横へ伸ばした瞬間相手の足が止まった。
ボールへ手を伸ばすと、慌てて仲間へパスを出す。
相手がシュートモーションへ入ったのを見た瞬間、桔梗が振り返ってゴールへむかって跳んだ。

ゴールへ向かって投げられたボールを、ゴールに左手で捕まって右手で弾きとばした。

「な…!!」
「なんだあれ…!?」

ビー、とブザーが鳴る。
唖然とする相手の前へ軽く着地した桔梗は、にっこり笑って言った。


「イージスを名乗る彼らに、あんまり無様な所は見せられないからね。」

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