「行ってきます、」
シン、と静かな室内に響く声。
家の者は居ない。いつから?…かなり昔から。
…そんなこたぁどうでもいい!!
今私は遅刻寸前なんだよ畜生が!
くっそー、なんでウチにチャリがないんだ!そうか買えばいいのか!!
そんな事を考えながら走る、走る、走る。
駅までもう少し。
あと少―…
・・・え?
視界に入りこんだのは飛び出す男の子、止まらないトラック、
気がつけば私は子供を道の端へ突き飛ばしていた。
体の左側に衝撃が走る。
衝撃に続いて感じる熱、熱、熱。
そして激痛、という一言では言い表せない全身の鈍痛。
何、これ。
ひしゃげて元の形が解らない左腕にパックリと割れた脇腹からは真っ赤な、
ああ、私轢かれたんだ。
指先動かすだけで全身が軋み痛み、視界が霞む。
私が突き飛ばした男の子は無事だろうか、
トラックの運ちゃんはこれから一生大変だろうな、
ああ、私、遅刻の電話入れて、なかっ…
気を失う直前、体をふありと暖かいものが包んだような、そんな気がした。
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なんてものを初めてしまったんだ私は。
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