夏未はしばらく言われた言葉がよくわからなかった。脳内でその言葉が上手く噛み砕かれるまでの間、瞬きすら忘れ守の顔を穴が開くほど見つめ続けた。そしてようやく言葉の意味を理解したときには、意識するでもなく涙が零れていた。

「あっ、わたし、ふえ、どうしよう、今すっすごく、嬉しいのっ、まもるっ、私、」

うまく言葉を紡げない夏未の頭を守が撫でる。その優しさに、益々夏未の瞳から涙が零れた。夏未が泣き止むまで、ずっと守は夏未の頭を撫でつづけた。


しばらくそうした後、ようやく夏未の涙が底をついた。ごめんなさい、と謝る夏未の声は少し掠れていた。

「ありがとう、守」

「…それは、どっちの意味で?」

不安げに眉を下げる守に、夏未は優しく微笑みかけた。

「…ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします、」


こつんと胸に頭を預けた夏未を、守はこれ以上ないくらいの力で強く抱きしめた。

あまりの力に正直体が痛かったが、夏未はなにも言わずに守の背に腕をまわして抱きついた。そうして、先程の守の言葉を思い出した。まだ、返事をしていないことがあった。

「ねえ、守…」

「うん?」

「あ、あの、さっき、一緒に寝るのが嬉しいって、言ってたでしょう…?」

言った途端守が文字通り凍りついた。しかし夏未は止まらない。顔を守の胸に埋めたまま、もそもそと言葉を紡ぐ。後先を見ないとはまさにこのことであった。

「どっどうせベッドも一つなのだし、その、もう婚約の仲でそれで、だから、いっ…一緒に寝てあげても――」


すべてを言い切る前に、夏未の視界は大きく反転していた。



「ごめん、抱く」



手短に告げられた言葉に、夏未が言葉を返す時間は一切認められなかった。


(一緒に寝るの意味が違うわよバカ!!)



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