部屋を出た後、夏未は後悔していた。きっと今日の旅行は守が前々から計画していたものだろうことを悟ったからだ。なぜそうだと正直に打ち明けてくれないのかは分からなかったが、それでも今日のために守が頭を悩ませていたのだと考えるだけで夏未は自責の念にかられた。部屋を出る際の守の顔が、夏未の脳裏を足早に駆けていく。テラスにぽつんと一人寂しく佇む夏未の背を、冷たい風邪が乱暴に撫でる。それにすら心が痛くなって、とうとう涙が溢れかけたその時だった。

「どうなされたんですか?」

優しくかけられた声に、夏未がゆるりと振り向いた。見れば若い男が少し後ろに立っていた。眉を下げて心配そうにこちらを伺う男に、夏未は慌てて返事を返す。

「い、いえ、少し風に当たりに」

言った途端夏未は後悔した。なんせ外はこの強風だ。当たるにしては厳しいだろう、そう男の目が如実に語っているのを目にして、二の句が告げずに口を閉ざしてしまう。黙りこくったままの夏未に、男は笑った。

「確かに、外は涼しいですもんね。よかったら隣、いいですか?」

「え、ええ」

不思議な人ね。そう思いながら、夏未は風の強いテラスで見ず知らずの男と肩を並べることとなった。




ホテルを暫く探して、ようやく夏未の姿を見つけたはいいが、守は夏未の名前を呼ぶことが出来なかった。
彼女の隣に見知らぬ男が立っていたからだ。しかしそれだけならまだ見過ごせたかもしれない。問題なのは男の右手の位置である。

(なんで腰に手ェまわしてんだ)

男の手は夏未を支えるように腰を抱いていた。たとえあの男が夏未の知り合いだったとしても、あんなことをするだろうか。否、しない。相手は歴とした女性である。体に容易く触れるなど言語道断。

いやそれ以前に、夏未は守の恋人なのだ。

目の前に光景に眉根を寄せ、守はやや大きめの声で夏未の名を呼んだ。



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