「旅行、行かないか?」

そう守が夏未に切り出したのがつい昨日の朝。なんでこんな朝からそんなことを言い出すのかと訝しく思いながらも夏未が了承の返事をかえせば、またも唐突に「今から準備しよう」などと言い出しそこからが大変だった。ホテルの予約なんてその日にとれるわけもなく、行った先で適当に見つければいいなどという雑な考えの下、慌てて二人は荷物をまとめたのだった。最近免許をとったばかりのペーパー紛いの守と共に約三時間かけてやってきた遠い地。景色は綺麗だし、空気もおいしい。けれど、夏未にはどうも附に落ちない点がひとつ。

「ねえ、どうして突然旅行に行こうなんて言い出したの?」

そうこれだ。付き合って結構経つが旅行なんてものはこれが初めてだった。今までそんなこと一度も言い出さなかった守が、どうして突然そんなことを言い出したのか、それが夏未には全くわからなかった。
何度か車内で同じ質問を繰り出したのだが、守は困ったように眉を下げてはにかんだだけで答えを口にすることはなかった。しかしそれで夏未は納得しない。今度こそは聞き出してやる、そう夏未の瞳は語っていた。

「ねえ、守」

「いや、その、なんていうか、うん…ただ、旅行したことなかったし、一回くらいは、って」

目を右に左にとせわしなく泳がせながら歯切れ悪く答える守を、夏未は下からじっと眺めていた。一体なにが言いたいのか。聞きたくとも守はそれきり口を噤んでしまった。

「…まあ、言いたくないのなら結構よ。どうせ旅行に来たのだし、楽しまないと」

そう夏未が言えば、途端に守は破顔した。現金な人ね、と小さく呟いた夏未の声が守にも聞こえていたことを、夏未は知らない。


守が何かを隠したまま進むとはいえ、やっぱり初めての二人きりでの旅行に会話は弾み、普段ならあまり繋ぐことのない手をしっかりと繋いで二人は歩いた。有名な甘味処に寄ったり、みんなへの土産は何にするかと話したり。時間が過ぎるのはあっという間のことだった。





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