「おいこらテメエ!お前俺のゲーム持ったままだろが早くかえ…ってプレイ中かよ!!」

ぶっころすぞ!!とドアを蹴破る勢いで山賊よろしく涼野の部屋に押し入ってきたのは涼野の右隣部屋の南雲晴矢である。

「うるさいぞ邪魔をするな。今ラスボスの第三形態と交戦中なんだ」

「邪魔するわボケェ!!てか早く掃除しろやテメエ!!」

不良顔負けの巻き舌で切れまくる南雲を前に、涼野の指は光の速さでコントローラーの上をすべる。ちなみに今日は12月31日の大晦日。年越し前の大掃除の真っ只中である。

「掃除ならもう終わった。私はお前と違って几帳面で潔癖で美形で秀才だからな」

「後半2つは関係ねえ!お前が俺よりキレイ好きなのは認めるが後半2つは関係ねえ!」

装備していたほうきを振り回して南雲が暴れる。途中ガシャンガシャンと何かが落ちる音が響いた。

「おいこら貴様、今なにか落としただろ、というか割れた感じの音がしたんだが!くそっ待っていろ、この闇の皇帝をあと数秒で無に帰したのちにお前も今年の汚物と共に片してやるからな!」

「なげえ!あとキメエ!つーかゲームすんな!返せ!」

ガシャンガシャンとなおもわざとらしくほうきを大振りし部屋のインテリアを駆逐していく南雲の後ろで、ガンガンと更なる騒音が鳴り響いた。先ほど南雲に蹴破られた不運な扉が叩かれる音である。

「うるさいわよアンタたち!!」

「げっ、杏の野郎だ」

「げっ、じゃないわよ馬鹿晴矢!」

バタンとまたしても扉が蹴破られ、蓮池が我が物顔で涼野の部屋に踏み入ってくるや否や持っていたはたきを南雲の顔に突き立てた。

「いでーーーっ!!目が、目がああああ」

転げ回る南雲を後目に、蓮池はドスドスと床をぶち抜く勢いで涼野に歩み寄ってゆく。そうしてコントローラーを一心不乱に操る涼野の目の前で、なんの迷いもなく、ハードの主電源を切った。

「きっ、キサマアアアアアア第三形態にまで変態した闇の皇帝相手に非状態異常、全ステータス無傷の完全勝利を目前にしてキサマアアアアアヒットポイント残り10にしてキサ「長いわよッ!!」

涼野の顔面に無慈悲の肘鉄が打ち込まれる。声にならぬ呻き声をあげて涼野がカーペットにうずくまった。

「アンタたち、静かに掃除もできないわけ?風介にいたっては掃除すらしてないし」

「なんだよ、わざわざ苦情言いにきたのかてめー」

食ってかかる南雲に心底ウザそうな目をした蓮池が「それだけじゃないわよおたんこなす」と吐き捨てる。じゃあなんなんだ、あん?と南雲の額に血管が浮かんだ。

「瞳子姉さんからの伝言を伝えにきてやったのよ。買い遅れたせいでそばが人数分足りなくて何人かはうどんになるから、先にどっちを食べるか決めときなさいって」

ちなみにあたしはうどんね。蓮池が両手の指を2本立ててからひとつを折った。どうやらあと1人はうどんを食べなければならないらしい。

「姉さんも結構おっちょこちょいだな…」

「それは言わない約束でしょ、で、どうすんの?」

南雲はちらりと涼野を伺い見た。本音を言えば南雲はそばの方が好みだったので、ここは素直にそばと答えたいところなのだ、が。残念ながら涼野もうどんよりそば派の人間であるということを、南雲は知っていた。

( まあここは大人らしく譲歩してやるか )

俺ってば寛大だなあ、なんて鼻をならしてじゃあ俺はあ〜、と言ったところでその声が遮られた。言わずもがな涼野である。

「じゃあ私はうどんで頼む」

「了解、じゃあ晴矢はそばでいい?」

「えっ、あっ、おう」

なんだそりゃ。えっ、お前そばのが好きだろ。えっ?あれ?

混乱してよくわからないまま返事を返してしまった南雲を置いて、そのまま蓮池は蹴破った扉を閉めて出て行ってしまう。

あとにぽつんと涼野と南雲だけが残された。

「いいのかよ、お前そばのが好きなんじゃ…」

訝しむように南雲がそう言えば、涼野は驚いたような顔した。が、その顔も瞬きの次の瞬間にはいつも以上に不機嫌そうな表情に変わる。

「別に、そばが好きだと言った覚えはない」

涼野はそれだけ言うとがしがしと頭をかいてそっぽを向いてしまう。まあ確かに面とむかって好きだと聞いたことはない、南雲はぐう、と二の句が告げずに口を閉ざした。くそっ、これじゃなんだか俺がカッコわりいみたいじゃねえか。絶対こいつそば好きなはずなのに。

「おい、」

「……なんだ」

「お、俺にもうどん、食わせろよ」

あれ、なんかますますカッコ悪いこと言ってっかなこれ。わけのわからないことを言う南雲を涼野はぽかんと呆けたように見つめた。

「だから、よ、半分こしようぜ、うどんとそば、」

「…え、あ、ああ、」

がしがしがし、とさらに強く涼野が頭をかいた。その頬が少し赤いことに気付いてしまった南雲の耳も、これ以上ないくらいの赤に染まっていることに、南雲は気付かないふりをした。







「晴矢と風介はどっちがいいって?」

「晴矢はそばで風介はうどんだって」

大鍋で湯を沸かす瞳子の隣で、蓮池がにやにやとさも面白そうに笑っている。

「風介が言い出したんだよ、うどんがいいって」

「あの2人は味覚がまるで違うものね。晴矢はそばが好きだから、風介はうどんの方が好きだったんじゃないかしら」

「違うよ姉さん。あの2人って、実はほとんど好きな食べ物がおんなじなんだから!」

それを聞いて、瞳子が火を調節しながら不思議そうに首をかしげた。

「あら、それにしてはいつも2人は違うものを食べているけれど?」

「だから、風介がわざと違うものを食べてるんだって!」

「?」

なおも首をかしげる瞳子の耳元で、蓮池が耐えきれなくなったように小さく小さく耳打ちをした。



「そしたら晴矢が、風介に半分くれって催促してくるでしょ?」


あの2人、なんやかんやで一番仲いいんだから。からかいの色を滲ませた鈴のような蓮池の声に、瞳子は確かにね、と合点したように小さく頷き笑みを零した。


時計の針が新年を知らせるまで、あと少しのことである。



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あけましておめでとうございます!(間に合いませんでした)




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