※成人している2人


俺とヒロトは仲がよかった。そりゃあもう端から見ても、あああいつらは親友なんだなあと思わせる位にはよかった。中学のときにサッカーをきっかけに初めて出会って、それから今に至るまでずっと親友だった。言うまでもなく俺はヒロトが好きで、ヒロトも俺が好きだった。思い上がりだと思われてもいい、でも本当に俺はヒロトに一番好かれている人間なのだと自負していた。だから馬鹿な俺は、いつしかヒロトから向けられる感情に勝手な妄想を抱いていた。ヒロトは俺を親友以上の目で見ているのではないかと。俺はあの頃ヒロトに親友以上の感情を抱いていて、ヒロトもそうだったらいいのにだとか、少しくらいはそんな風に思ってくれているんじゃないかだとか、そんなことばかり考えていたあまりそうゆう類の妄信をするようになったのだと思う。所謂、若気の至りというやつだ。でもさすがの俺でもヒロトにその想いを告げるまでには至らなかった。一応モラルだとかそんなものを気にしていたのかもしれないし、ただ臆病になっていたのかもしれない。今となってははっきりと思い出せないが。まあそんなわけでヒロトと初めて会ってから十年経ったある日、なおも親友を続けていたヒロトから突然結婚報告を聞いたときは頭の中を軽い天地創造が行われるレベルでの衝撃が襲ったわけだ。なんたって十年近くもそばにいたのに、ヒロトはそんな素振りをまったく見せなかったんだから。なんで今までなにも言ってくれなかったんだ、そう思うよりも先に頭を掠めたのは「ヒロトは俺のことなんて親友としてしかみてなかったんだ」という現実だった。ひどく惨めで恥ずかしくて、何も知らずにヒロトの隣で叶いもしない未来を想像して笑っていた昔の自分が憎くなった。電撃結婚発表をしたヒロトの手前、うまく祝福の言葉を投げかけられたか記憶にない位、その時の俺は混乱していた。唯一記憶に残っていたとすれば、ヒロトの見たこともないような嬉しそうな笑顔だけだった。



「今日は来てくれてありがとう」

結婚式の華やかな席のなか、かつての学友たちの前でヒロトが丁寧にお辞儀をした。そんなヒロトに次々と祝福や茶化すような言葉が飛ぶが、それにすらヒロトは照れたように笑うばかりで、そんなヒロトの隣でも俺の知らない女性が同じように笑っていた。きっと幸せを形にしたらこんな感じなんだろう。そうぼんやりと考えて、少し目頭が熱くなった。あいつの一生のなかで一番幸せなときは今この瞬間で、一番悲しいときはあの女性が死ぬときに違いない。でもそれでいい。一番じゃない幸せな瞬間のなかに俺が含まれていて、たまに奥さんとそのときの話をして他愛なく笑いあうような、そんな過去でいい。ヒロトと俺が過ごした過去の青い日々を一番の幸せだと考えるのが俺だけでありますように。そう願って、俺はようやく心からの笑顔を久しく浮かべることが出来た。だってきっと、今度は願わずとも叶う願いごとなのだから。


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ヒロトにすら過去のヒロトを取られたくない円堂さん



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