※たらしヒロト
※円堂がスレ気味
※高校生設定



「基山くん、また女の子泣かせたらしいよ」「よくあることじゃない」「でもこれで何人かしら」「10は越えてるよきっと、まあ基山くんはそんなのいちいち覚えてないだろうけどー」

その通りでーす。基山くんはいちいち泣かせた女の子の数なんてカウントしていませんよー。

喧騒に溢れた食堂の中、俺の横に座る女子たちが女特有のひそひそ話というものに夢中になっていた。って言っても、ひそひそだなんて形容できるような声量でないのは確かで、周りにいる人間は素知らぬ顔をしながら皆女子たちの話に耳を傾けている。まあかくゆう俺もその一人なわけだが。

「あっ、基山くんだわ」

女子の一人が先ほどよりも大きな声をあげた。目線を辿った先、ちょうど入り口のところに奴はいた。女を三人も侍らせるその姿はさながら歩くプチハーレム。デレデレ鼻の下伸ばしてきめえよ。しかしここでなによりも残念なのは、あいつに彼女がいることだ。侍らせている女の中には、まあ勿論のことその現彼女はいない。というかいたら色んな意味ですごい。まじ吐き気おえー。

なんて考えてたらあいつが俺に気付いたらしい。俺に軽く手を振ったと思ったらこちらに近付いてきた。まじかよおえー。

「守、隣いい?」

目の前に来たと思ったら恐ろしく綺麗な王子スマイルでとんでもないことを言ってきた。その発言が通る可能性を打ち出せるこいつの脳みそが恐い。
…なんていいつつも、俺は優しい人間なので。

「ああ、どうぞ」

と、こう答えてやる。もちろん最上級の笑顔は忘れない。こうゆう振る舞いのことを世間じゃ猫をかぶる、というのだろう。しかし脳みそツルツルの馬鹿正直なこいつは俺の言葉に含まれた不快感など感じ取ることすらなくニッコリ笑った。自然と眉根に皺が寄りかける程不愉快だ。

「ありがとう。はい、みんなも座って」

左横の女子たちも今じゃいつのまにか退散していて、俺の周りはすっからかんだった。ここで一応誤解のないように補足しておくと、俺はわざと一人で飯を食っていたのであって決して友達がいないだとかそんな訳ではない。友達はいる。だからそんな目でみんなお付き女子三人衆。

「あっ、そういえば紹介してなかったね、彼は円堂守って言って俺の親友なんだ」

おい、当てつけがましく親友とか言うな。お前以外にも友達いるからな。親友って呼べる人間だっているぞおい。だからそんな目で見んなって言ってるだろ三人衆!

「ところでさ、守、今日一緒に帰らない?」

はあ…?普段は彩りみどりな女子集団と帰ってるだろ。なんでいきなり。つか女いる前でそーゆう話振んな。見ろ、前に座ってる子の目がやばいから。

なーんて、言いつつの。

「いいけど」

なわけで。俺は体裁だけは気にする方だし断れる訳もない。が、やっぱり体裁は気するので、一応女子をフォロー。

「でも、女の子たちはお前と帰りたいんじゃないのか」
「あー、大丈夫。この子たちとは明日カラオケに行くから」

あ、そうですか。じゃあもう何も言うまい。つか彼女はもう空気?お前にとっての過去の付属物か何かかねおえー。
はあ、なんだか本気で気分が悪くなってきた。もうダメ俺教室帰る。

「ごめん、なんか気分悪くなってきたから先教室帰っとくな」
「えっ、大丈夫かい?なんなら送ろ「いや大丈夫俺一人で帰れるよありがとう」

なんの歪みもなく即答してその場をあとにする俺の背に、女子のひそひそ(陰険悪口)話声とヒロトの視線だけが刺さっていた。
も、早く家帰りたい。早退してしまおうかな。


「はい、じゃあ今日のホームルームはこれで終わります」

事務的なホームルームが終わりを告げ、次々と生徒たちが教室を後にする。結局、体裁気にしいの真面目な俺は保健室で惰眠を貪ることも、ましてや早退することさえも出来ぬまま今日の授業が終わってしまった。これで確実に、今日の帰路ではあいつと気まずい思いを胸にしながら肩を並べ帰らなければならないのだ。素直に彼女とでも帰ればいいのに。
いっそこのままこっそり帰ってしまおうか。そう、ちらりと脳内を走った考えはすぐに霧散してしまった。どうせ俺は体裁を気にする小心者なのだ。

重たい足を叱咤して、しぶしぶあいつを迎えに行くことにした。

俺たちのクラスがある階は、ホームルームが終わって30分も経たないうちにほとんどの生徒がいなくなっていた。皆クラブや友達を迎えに行くために下へ降りてしまったのだろう。それが無性に羨ましかった。
そうしてぼんやりと歩きながら角を曲がったとき、何かがすごい勢いでぶつかってきた。

「わっ」

どん、と激しくぶつかった割に衝撃は軽かった。驚いて自分の少し目線の下を見れば、見覚えのある女の子が涙を流してこちらを見つめていた。

そうだ。この子はあいつの今の彼女、だ。

適当にごめんなとでも言おうとした口は思うように動かなかった。でかかった言葉が喉で引っかかってうまく声にならない。
そんなこんな、喉で気のない言葉たちがのたうち回っているうちに、胸元にいた女の子は目を伏せて踵を返し右横の階段にへと駆け出してしまった。その細い後ろ姿に、たった今自分が向かおうとしていた教室で起こったであろう惨事が容易に想像できた。

たどり着いた教室の中、あいつがぽつんと窓際に棒立ちになっていた。俺に気づいて振り返ったその顔は、まるで泣き出す直前の赤ちゃんのような表情だった。鼻の頭を真っ赤にして、泣きつくように俺の胸に飛び込んできたこいつを、俺は一体どんな目で見ていたのか。

「まもる、おれ、ふられちゃった」

肩口に頭をうずめて喋る声はひどく聞き取りづらかった。けれど先ほどこの教室で起きただろう出来事を容易に想像できた俺にとって、それはさほど気にはならなかった。要するに、こいつは振られたのだ。バカな奴。あれもこれもと色んな女に手を出すからだ。
とうとう胸元からくすくすと鼻を啜る音が響きだした。そのうち嗚咽もわざとらしく漏れ出すのだろうと考えると、自然と胸元にある頭を抱きしめたくなった。ひどい目にばかり遭わされているのに、バカな奴。

「…ヒロト、俺がいるから」

そっとまわした手でその背中を撫でてやる。顔をあげてこちら見つめたヒロトの睫毛はしっとりと涙に濡れていた。

「まもる、やっぱりおれには、まもるだけだ、まもる、まもる好きだよ」

馬鹿みてえ。そうやって女に振られる度泣きついてきて、俺の知らない人間に愛を囁いたのと同じ口で俺にも好きだと平気で言うんだから。それでも、俺は。ああもうそうだ、なにをされてもこいつと縁を切れなかった理由なんてひとつしかないんだよ。

「馬鹿みてえ。そんなの俺も、」






夕暮れのひと気のない道で、晴れて付き合うこととなった俺とヒロトは仲良く手を繋いで歩いていた。今ではヒロトもすっかり笑顔で、そんなヒロトに俺もこれからのことを思ってたまらなく嬉しくなった。

「な、ヒロト、携帯貸して」

「いいけど、何するの?」

なんの疑いもなく自分の携帯を差し出したヒロトは、俺がその携帯を開いて何をするのかと興味深いように横から覗き込んだ。俺は迷わずアドレス帳を開く。あの子の名前は確か、

「…なんでさっき俺をふった子のアドレスなんか見てるの」

ヒロトがあからさまに不機嫌な顔をした。まあそりゃそうか。

「あの子のこと忘れられるように、俺が直々にアドレスを削除してやろうと思って」

そう言ったら、ヒロトはすぐに笑顔になって「そっか、」と言った。

ほんっと馬鹿な奴。

少し時間をかけてヒロトに携帯を返し、それから深く手を握りなおした。分かれ道は、すぐそこだ。もうこの手も離さなければならない。

「もうお別れだね…」

ヒロトが足元に目線を落とした。それが妙にしおらしくて、少しだけ可愛かった。

「明日になればまた会えるさ」

学校でも会えるし、帰りだって手を繋いで一緒に帰ればいい。行きだって一緒に行けばいい。そう言ったら、やっぱりヒロトはすぐに笑顔になった。他のどの人間といる時よりも綺麗で子供らしい無邪気なその笑顔に、俺が今までこいつに泣かされた女たちに復讐の話を電話で持ちかけているのだと知ったらどんな顔をするだろうかと想像して、やっぱり俺も笑顔になった。


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たまらなくヒロトという人間が嫌いな円堂



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