※死ねた


「好きだよ、守」
「俺と、一緒になってくれないかな」

目の前で照れたように笑うヒロトの目には、俺が一生で感じることのできる幸せのすべてが滲んだような優しい色が溶けていて、俺は涙で霞む視界のなかで今その瞬間のその風景を脳に焼き付けようと必死にヒロトを見つめ続けたのを、今でも鮮明に覚えている。他にも、あの日は12月で最も寒かった日で、場所は季節はずれな海だったことや、切れ切れの嗚咽と共に返事を返したことや、そのときのヒロトの泣き笑いのような表情、声すらも、すべてすべて色褪せることなく思い出せるのだ。それなのになぜだろうか。あのとき俺に幸せのすべてを与えてくれたはずのヒロトが今この瞬間俺の隣にいないのは。
あれから一緒に歳をとって、手を取り合って、そうして一生を全うするのではなかったのか。あいつの人生に幕が引かれるのはまだまだ先ではなかったのか。
何度考えてもわからなかった。頭がぐちゃぐちゃで、訳がわからなくて、それでもヒロトの笑顔だけは記憶のなかで綺麗に生き続けていて。12月の最も寒かった日、今年のその日はあのときよりももっと寒くて、頬にあたる風は身を切るような冷たさを含んでいた。見つめた先で波が引き寄せては砂をさらっていく様に、噛み締めた唇の間から微かな嗚咽だけがこぼれた。
いっそこのまま海に身を投げて死んでしまえたら、なんて願いは叶うことなく砂と共に海の底にへと沈んでしまうのだ。声をあげて泣いたとしても、臆病な自分の背をさすってくれる人がいないように。


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生きたくも死にたくもない円堂



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