※同居


じゃじゃーん!見よこの色とりどりの食材たち!と大量のレシピ!一週間前から計画していただけあってかなり集まったなあ。今日はとうとうヒロトの誕生日だ。あいつは物欲がないから、何が欲しいかと聞いても決まって「守がいれば何も要らないよ」と言う。だから今年は俺が腕によりをかけて豪勢な料理を作ってやるんだ!
ふっふっふっ、帰ってきたら驚くぞヒロトの奴。

よーし、まず第一に野菜を洗って、一口大に切って、あと湯を沸かす。その間にオーブンとケーキの生地の準備。なんか今の俺輝いてるな。出来る主夫、ザ・俺。やばいな俺。ヒロトは褒めてくれるかな。「さっすが俺の奥さん!サッカーだけじゃなく料理もうまいなんて!」

って馬鹿なことやってる場合じゃなかった。オーブンオーブン。…余熱ってなんだ?これか?あっ、なんかいけそうだし大丈夫かな。
で、次は、えっとレシピレシピっと…あれっ、あのケーキのレシピどこいった?うわっ、ないっ!えっえっ、えっ!?

うわああ湯沸いてるっ!やばいやば…あっつッ!!水水水、あああケーキのレシピがシンクの中にいいい
あっ、あぶなかった…!だがレシピは死守したぞ!ふう、なかなか手強いなペキンダックってやつは…ん?なんか焦げくさいな、えっオーブン?余熱って勝手に止まるんじゃないのか!?うわっ、あちっ!なにこれどうやって止めんだ!?

けけけ煙まで出てきたやばいやばいやばい!!あっ、あれは、手袋みたいなやつ!どこにあ…ッチイイ!鍋ひっくり返しちゃったよ俺の馬鹿しかもあっつ!ゴホ、ゴホッ、け、煙が……あづッ、いでッ、ゴホッ、

ヒ、ヒロト、たすけてっ…!!





「…もうほんと驚いたよ。帰ってきたら火災報知器が鳴ってて、慌ててリビングに駆け込んだら守が倒れてるし…」

あれから数時間後、仕事から帰ってきたヒロトによって一命を取り留めた俺。っていっても軽い火傷をしただけなんだけど。それでも、鍋をひっくり返し、オーブンに右足小指をぶつけ、床の熱湯で滑ってシンクに側頭部をぶつけた時は本当に死んだかと思った。
目を覚ました時、病院でヒロトの顔が真っ先に見えた時は本気で生きていることに感謝した位だ。まあ火傷しただけなんだが。

「いや、その、さ、今日ってヒロトの誕生日だから、料理作ろうと思って…」

もうなんと罵られてもかまわない。ありのままの出来事を話たら、ヒロトは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてこちらを見つめた。それからスッと目を細めるから、これはくる!と思わずぎゅっと目を瞑った。
けれど、考えていた言葉は飛ぶことはなく、変わりに頭に手が置かれる感触に恐る恐る目を開ければ、優しく笑ったヒロトがいた。

「おっ、怒らないのか…?」

「本当はそうしようと思ってたけど、そんなかわいいこと言われたら、ね」

そう言って、ヒロトは俺の頭をゆっくりと撫でた。なんだか分からないが涙がでた。

「ごめんな、なんにもできてない上にキッチン無茶苦茶にして」

「ううん、いいよ。それに、ケーキなら守が焼いたスポンジがあるから、今からでも完成できるさ」

ヒロト…お前すげーよ。そんなフォローまでしてくれるなんて。ほんと大好きです。

「さ、今からキッチンを片付けてケーキを作ろうか」

「おうっ!」

料理は失敗したけど、まだまだ今日は長いんだ。この失敗を取り返すために頑張るぞっ!





その決意から二時間後、俺とヒロトは食中毒で再び病院の世話になることとなる。



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