※腹黒い円堂、鈍感な基山、不憫な南雲


ヒロトが入院をした。車にはねられかけた子供を庇った際に体中を擦ったのだ。大した怪我でもなかったため明後日にも退院できるとのことだったが、まあ一度くらいは顔を見せてやろうと南雲が病院に足を運んでみれば、先客が甲斐甲斐しくも眠るヒロトの世話をしていた。言うまでもなく円堂守である。

「あ、来たのか南雲」

ヒロトの眠るベッドの横に腰掛けた円堂は薄く口角を上げて笑んだ。南雲は円堂のこの笑い方が嫌いであった。円堂はこの不快な表情を南雲の前でしか形作らない。人前では外面のよい善人を演じているが、化けの皮を剥がせば根暗な性悪が顔を覗かせる、円堂はそんな人間であった。

「花、もう替えたからそれは持って帰って生ければ」

普通んなこと言わねえだろ、南雲は心中で唾を吐いた。しかし円堂に別段悪そびれた様子はない。ヒロトの手をしっかりと握ったままフンフンと鼻歌まで歌い出す始末だ。繋がれた手にちらりと視線を走らせて、南雲は持ってきた花束を手近な棚に乱雑に置いた。拍子に花びらが散ったがもう誰の意識にも留まることはない。

「そうだ、ヒロトって林檎が好きなんだ、剥いといてやろう」

勿論南雲はそのことを知っていた。しかし何も言わず、円堂が右手からヒロトの指を一本ずつ丁寧に剥がすのを見つめていた。繋がれた手が離れると同時に南雲は席を立った。ヒロトの顔を見たいと思ってのことであった。
そんな南雲を横目でみやり円堂は林檎と果物ナイフを手にとる。南雲がゆるりと踏み出す。円堂が林檎にナイフを当てる。踏み出す。果肉にナイフを食い込ませる。また、踏み出す―――前に南雲はぴたりと動きを止めた。見下げた足元、鈍色に光る果物ナイフが南雲の行く手を阻むように床に食い込んでいたからだ。

「あっごめん大丈夫か南雲うっかり手が滑って怪我ないか」

ざくり。引き抜いたナイフを林檎に突き刺して円堂が言った。やはり悪そびれた様子はない。

「うん大丈夫そうだなよかったまあ座ってろよ危ないから」

このときにはもう南雲の内に抵抗する意志は微塵も残されていなかった。忙しく動く左胸を小さく抑えて再び席に着けば、がたんと椅子が悲鳴を上げた。
静かな病室に大きく響いたその音に、ヒロトの瞼がゆっくりと開く。途端円堂が皮を被った。

「おはよう、ヒロト。気分はどうだ?」

ぼんやりと円堂を見つめたヒロトは、ややあって「平気だよ」と答えた。それから嬉しそうにだらしなく頬を緩め笑う。

「守来てくれてたんだ」
「当たり前だろ、ヒロトのこと好きなんだから」

ヒロトが笑う。南雲が見たことのない笑顔で笑う。こちらになど気付く様子もなく、笑う。

南雲は静かに席を立ち花束を手に取って部屋を出た。後ろからヒロトの呼ぶ声が聞こえた気がしたが、南雲は振り返ることすらしなかった。
萎びた花束に隠されたその表情など、誰にもわかりはしないのだ。


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読みづらい文章
色々変



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