※執事円堂・坊ちゃん基山
※暗い
基山ヒロトの父親が失踪した。何の前触れもなく突然姿を消してしまったのだ。警察に届け出を出してから一週間経つが捜査はなんの進展もみせず、まさにお手上げ状態。
基山ヒロトの父は大会社の社長であり、失踪当時は拉致誘拐でもされたのかと警戒していたのだがどうもそうではないらしい。その証拠に未だ犯人(いればだか)からの要求はない。なんだこれは拉致誘拐じゃあないのか、と今では只の失踪事件として扱われてしまっていた。それでいいのかと言う話なのだが、ヒロトは父親をひどく毛嫌いしており、全くといっていいほど気にかけていなかったのが現実である。
血の繋がった実の父親をここまで忌み嫌うには勿論理由がある。それというのが暴力だ。気性の荒いヒロトの父親はなにかとすぐに実の息子であるヒロトや使用人たちに手をあげる始末であった。ヒロトもいい加減疲れていたし、こんなことを言うのも不謹慎であるが父親がいなくなってからというものヒロトは心安らぐ日々を過ごしていた。
今のこの状態がずっと続けばいい、それがヒロトの本心であった。
「ヒロト?」
驚いて振り返れば使用人の一人である少年、円堂守がヒロトのすぐ後ろに立っていた。薄暗い部屋の中、窓から差し込む月明かりだけが彼をぼんやりと照らし出している。
「守、よくここがわかったね」
ここは特別な所からでしか出入りのできない屋根裏部屋で、古くからいる使用人でさえ、存在すらも知らないような場所である。
「へへ、これでもヒロトの使用人兼親友だからな」
円堂は空に浮かぶ三日月のように目を細めて得意げに笑うと、ヒロトの隣に腰掛けた。
「なあ、昔使用人とヒロトでかくれんぼしたの覚えてるか?ヒロトだけが最後まで見つかんなくて、みんな大騒ぎになったやつ」
「うん、覚えてるよ。確か守が見つけてくれたんだよね。…そういえばあのときも俺、ここに隠れてて……あ」
「わかった?」
そう言って悪戯っぽく笑った守に漸く納得がいった。
「だから守はここがわかったのか」
「そゆこと。むちゃくちゃ大変だったんだからな、ここ見つけるの。昔のお前はよく見つけたもんだよ」
そう言われ、ああそういえばここ見つけるのにすごく苦労したなあなんて思ったところでふと、ヒロトはある風景を頭に浮かべた。
「あの時さ、ここを見つける前に地下室を見つけたんだ。でも鍵がかかってて入れなかった。…今なら、父さんの鍵も俺が持ってるから、きっと」
はいれる、そう言おうとしたところでヒロトは隣に目を向けた。そこには目玉にぎらぎらと月光を映して笑う円堂がいた。
「あそこには何にもないから入る必要なんかないさ。ヒロトは気にすることないし鍵も要らないよ」
飴色の瞳にヒロトを映して円堂が言う。その瞳の中、ヒロトの笑う顔がゆらゆら揺らぐ。
「ところでヒロトはここに何しに来たの」
雀の涙ほどの不安を孕んだ声音で問う円堂に、ヒロトはまるで安心させるかのように優しく笑いかける。
「うん、父さんを探しに」
古びた地下室の鍵が窓からその身を躍らせた。
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犯人は使用人全員
ヒロトはなんとなくそれに気付いてる
設定生かせてない