※吉良生存


読み取れない文字は――表記とし、()は原文の説明とする。

4月12日
今日から日記をつけることにした。俺はいわゆる記憶障害者だからだ。その日一日にあった大切なことを記録する手段として日記を選んだ。いいか、明日の俺、お前は次の日になれば記憶障害者だという事実を忘れ、前の俺に戻ってしまう。だから毎日この日記を書き、そして見るんだ。毎日4月12日の内容から読み返せ。
3月5日からの基山ヒロトより。

4月13日
どうやら俺は記憶障害者らしい。俺の記憶では3月4日であるはずの今日が世間では4月13であるところを見ると、確かにそれは事実のようだ。どうしようか、ややこしいことになっている。とりあえず昨日の俺に言われた通り今日あったことを書くことにする。
・俺と瞳子姉さんで買い物に行った。
・昼は姉さんとレストランで食べた。
・夕飯はハンバーグだった。
大切なことは特にはなかった。

4月15日
昨日は体調が悪くて一日寝ていたらしい。姉さんから今日の朝聞いた。とりあえず今までの日記と姉さん達の説明で大体は理解した。13日の俺が書いたとおり、ひどくややこしい。
今日あったこと。
・円堂くんから明日遊べるかとメールがきた、円堂くんは俺が記憶障害であることを知っているらしい。もちろん大丈夫だと返信。1時頃に俺の家予定。
・なんだか姉さんがそわそわしていた。理由はわからない。俺を見るとなぜか困った顔をした。

4月16日
朝日記を見て今までのことを知った。正直かなりびっくりしたけど「今まででの」俺がこの日記でそのことについて触れているからもう驚かないことにした。だから明日からの俺は驚かないように!
今日は円堂君と遊んだ。公園でサッカーしたり俺の家でゲームしたりしてすごく楽しかった。円堂君といるとすごく幸せな気持ちになる。(この後に続く一文は消されている。)

(一部略)

4月29日
朝から姉さんの様子がおかしかった。ずっと電話と玄関の方を気にしていた。訳は教えてもらえなかった。

5月1日
姉さんが泣いていた。訳は教えてもらえなかった。

5月5日
3日前吉良ヒロトが帰ってきた。姉さんはやっぱり泣いていたがとても嬉しそうだった。吉良ヒロトは俺にも優しく接してくれた。

5月7日
円堂君が遊びに来た。吉良ヒロトと三人で遊んだ。

5月8日
円堂君が遊びに来た。円堂君は吉良ヒロトと気が合うみたいだ。他に書くことはない。

(同内容が続くため一部略)

5月25日
円堂君から吉良ヒロトが好きなのだと言われた。だから相談にのった。(何かが書かれているが上から鉛筆で塗りつぶされている)

5月30日
姉さんが俺の好きな料理を作ってくれた。吉良ヒロトと円堂君と俺でサッカーをした。俺は幸せだ。俺はとても幸せだ。

6月2日
円堂君と吉良ヒロトが両想いになった。

6月3日
(文字が滲んでいる箇所があるので、読みとれる部分だけを抜粋)
俺は――君と一緒―いれ―――せ―ですご―楽―かった―俺は君が―――した。きっと明――このことを忘れ―い――ろうから、―めてこの日記―残――おく―と―――す。

6月12日
今日から日記はやめることにした。おつかれさま2ヶ月間の基山ヒロト。
円堂君、それに吉良ヒロト、俺は君たちが――――――――(黒く塗りつぶされている)


《以上、とある失踪事件に関わる少年の日記より抜粋》


―――――――――

脆いけど脆くない基山



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -