※「かわいそうなひと」の続きで6年後。
※とにかく暗くて気分の悪い話。円堂が人殺し。





俺は三日前人を殺した。世間一般から見ればなんの変哲もない男であった。けれど俺の目から見ればこの世で一番憎い人間であった。
一週間前偶然その男を見つけたとき、俺のなかでなにかが音をたてて崩れ落ちた。男は六年と二ヶ月と四日前に俺の一番大切な人をひき殺した糞野郎だった。そんな糞野郎は小さな女の子と綺麗な女性を連れていた。男は幸せな家庭を築いていたのだ。
ヒロトが死んでから懸命に生きてきた俺にとってそれは最大の起爆剤となった。
あいつをころしてやる。そう決意した日から男のことを調べ上げ緻密に計画を練った。
それから四日後、男は俺の手によってその生涯に幕を下ろした。犯行は完璧だった。俺はヒロトの仇をとったのだ!
次の日から男の家の周辺を警察がうろつくようになった。近所の人間に聞き込みをいれる警官たちが可笑しくて仕方なかった。
警察は男との因果関係からヒロトの家族のところにもやってきた。想定していたとはいえ少し申し訳なく感じた。
そしてとうとう俺のところにも警察がきた。俺とヒロトがどんな関係だったのかを知っているらしく、俺を見る瞳には明らかな疑心が滲んでいた。
しかしどんなに疑ったところで証拠はない。だから間抜けなそいつらに「俺を疑ってるなら証拠を持ってきてくださいよ」と最高にいい笑顔で言ってやった。バタンと玄関の扉を閉めた瞬間俺は笑い転げた。外にいる警察に聞こえたってかまわなかった。俺はこの復讐劇に勝ったのだ。
あれから三日経った今、警察は俺のところに二度と顔を見せていない。俺は完璧にやり遂げたのだ。机の上に置かれたヒロトの写真ににっこりと微笑んだとき、家のインターホンが鳴った。もしかしたらまた警察がきたのかと表情を引き締めて玄関の扉を開けたら、そこにいたのは警察ではなく南雲晴矢だった。
「南雲!ひさしぶりだな」表情を緩めて笑いかけると、南雲は少し眉を下げた。
「ほら、中はいれよ。いまお茶いれるからさ」
すごく気分がよかったから、普段なら使わないようなカップを引っ張り出してお茶を注ぐ。ちらりとリビングに視線を走らせれば南雲と目があった。
「はいどうぞ。で、突然どうしたんだ?」
目をあわせたまま南雲の前にカップを置くと、南雲は一度だけ瞬きをしたあとゆるりと口を開いた。
「お前は、まだ自分のためには泣けないのか」
「え?」
予想外だった。てっきり事件のことを聞きにきたのかと思っていたのに。
「他にはないのか、話すこと」ぐっと身を乗り出して聞けばふるふると首を横にふられ、この三日間上がりきっていた感情が一気に冷めるのを感じた。
静かに席を立つ。南雲の腕を掴んで小さく帰れ、と言ったらなんの抵抗もなく南雲は玄関に向かった。

「おまえはかわいそうだ」
帰り際、俺に背をむけて南雲が言った。意味がわからなくて「何言ってるんだよ、俺はすごく幸せなのに」と笑ったら、南雲はまた「おまえはかわいそうだ」と言った。すごく苛々して南雲の背中を睨みつけた。なんなんだ、俺は幸せだ、ヒロトの仇をうった、だから、

「あの男の人は、事故のあと毎日俺たちの家にきてヒロトの仏壇に手をあわせてくれた。毎日ヒロトの墓参りにもきてくれた。…あの人は、お前にも謝りたいって、言ってた」

「おまえも、ヒロトも、あの男の人も」

みんなかわいそうだ、扉を開けた南雲がこちらを振り返らずに言った。ばたんと重たい音がして扉が閉まる。あとに残されたのは溢れそうになる涙を必死でこらえる殺人犯だった。

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わ、わかりづらい

全力で土下座したくなってきました



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