※死ネタ


円堂は人のために泣ける人間だった。もし誰かが傷付けばまるで自分のことのように胸を痛め涙を流した。
けれど円堂は自分のために泣くことはなかった。

だから基山ヒロトという人間が死んだとき、円堂は涙ひとつこぼさなかった。ヒロトの葬儀に参列する円堂の表情はまるで能面のようだったのを覚えている。
ヒロトが死んでしばらく経ってから俺は円堂を訪ねた。心配で様子を見に来たのだが、そんな想いに反して円堂は普段どおりの生活をつづけていた。
そのことに思わず「ヒロトが死んだのに悲しくないのか?」と聞くと、円堂は前と全く変わらぬ笑顔で「俺は昔と同じ俺に見えてるか?」と聞き返してきた。わけがわからなかった。
少し迷ってからこくりと肯くと、その笑顔のまま「じゃあヒロトはまだ悲しまずにすむな」と円堂は言った。涙などひと粒もこぼれそうにないその表情を見て、こいつは一生自分のためには泣けないのだと知った。



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