(ガチャ…)


「名前ちゃん」


「た、妙ちゃん、と柳生さん!」


ドアを開けると、其処には、妙と彼女の友人の柳生九兵衛が立っており、名前は目を見開く。



「さっき電話くれたでしょ?何かあったんじゃないかと思って」

「もし喧嘩を売られたなら僕が代わりに買ってあげるよ」


拳を鳴らすお妙と竹刀を持つ九兵衛。そんな彼女達はとても頼もしくはあるが、勿論そういう理由ではない為、名前は苦笑いを零した。


「あ、ううん、そんなんじゃないの!大っ嫌いな虫が出たから助けてもらおうと…」

「虫?」

「そうだったのか。じゃあ、その虫は今どこだ?僕が退治を…「あぁっ大丈夫!もう倒したから!」

「あら、そうなの?」


よし、と、一歩前に踏み出した九兵衛を名前は慌てて止める。
そしてさり気なく後ろを見るが、“彼”の姿は見えていない為、心中ほっとした。



「うん、大した事じゃなかったのに、ごめん…」

「いや、いいんだ。また何かあったら言ってくれ。僕が助けるよ」

「そうよ。いつでも私達に言ってね」


「うん……ありがと…!」


「それじゃ」

「また明日ね」

「バイバイ」


優しく頼もしい言葉に名前は深く頷き、気持ちを受け取りながら二人の背中を見送った。



**




(バタン…)


「……なんか似た状況が前もあったような…」



「俺が出るか出ないかの違いだなァ」

「ひぃっ…!?」


閉めたドアを見詰めながら呟いていると、後ろから顎を掴まれ、名前は思わず声を上げる。


「失礼な驚き方だなテメェ」

「た、高杉くんこそ!まともに話し掛けてよ…!」


毎度の事ながら、何時も高杉には驚かされ、名前は自らの寿命が縮んでるのではと感じ始めていた。



「まともに?」

「そ、そうだよ!いつも…いつも、色んな子にこんな事してるんでしょ!ぁっ……」


つい勢い余って吐いた言葉に、名前は口を噤む。
高杉は、ほんの僅かではあるが、驚いた表情を浮かべた。



「色んな?何の事だ」

「あ、いや〜……」


「…………まァ、大体想像はつくけどなァ」

「?」


(ガチャ)


「何でもねーよ。じゃあな」


高杉が鼻を鳴らしながら小さく呟いた言葉に首を傾げていると、彼はドアを開け、部屋を出ようとした。



「た、待った!」

「たまった?」

「待っ、て…」

「…何だ」


「私、結局まだお礼してないから…」


妙な展開から二度も礼をし損ねてしまったが、どうしても礼がしたい名前は、呼び止め、真っ直ぐに彼を見詰める。



「………。変なヤツだなお前は」

「……………」


「なら、俺が考えといてやらァ」

「え?」

「礼の内容。その代わり――…」

「その、代わり…?」



「拒否権はナシだ」

「ナシ!?」

「どうする?」


礼がしたくても、何をすれば良いか思い付かない名前の為なのか、高杉は自ら考えて、それをしてもらおうと提案する。
が、代わりに彼女には“拒否権なし”という若干無理ある条件付き。



「………………」


“どうしよう……拒否権ナシ……。でも、結構高杉くんには迷惑かけてるからなぁ……”


うーん、と名前が眉間に皺を寄せながら考えていると、高杉がクク、と笑ったのが耳に届いた。






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