――――…




―――――…






「タコ」


「っ!!」


てっきり口付けされるかと思いきや、耳許に届いた声に名前はピクリと小さく肩を跳ね上がらせた。

ゆっくりと開き始めていた瞼は、すぐ傍にある高杉の顔が映った瞬間、一気に開かれる。



「ち、かっ…」


「ククッ…真っ赤」


至近距離で笑われてしまい、名前は勢い良く彼の腕から逃れた。



「なっ…な…!」

「あァ?」


「い、今、何、しようと…!」

「さァ…何だろうな」


真っ赤になり、片言口調になる名前と、ニィ、と口許を吊り上げる高杉。二人の温度差は計り知れないだろう。



「な、何だろうって…」

「お前、やっぱ面白ェよ」

「!」


完全に彼のペースに乗せられていると感じた名前は、眉を顰めながら肩に掛かっていたタオルを取り、ハンガーに掛けた。



「からかわないでよ…!」

「からかっちゃいねーよ」

「いや、どう見てもその顔はからかってる…」


からかってはいない―――
ニヤニヤと笑みを浮かべ続けている高杉にその言葉を吐かれても、納得出来る筈もなく。
名前の疑いの色は濃くなるばかり。



「ンな顔すんなや。襲いたくなる」

「おそっ…!?」


妖しい表情と言動。
やはり彼は危険人物なのか。
名前の脳内には再びそんな事がぐるぐると駆け巡っていた。



「ヘンなこと…言わないで…よ」

「?」


名前の顔が再び赤らみ始め、高杉はその彼女の顔を、疑問を抱きながら見詰める。

彼の視線に応える余裕が無い名前。何故そうなったかの理由は自分自身がよく分かっていた。



“あぁ〜…思い出しちゃったよ〜……”


「…………」

「どうしたァ?」


「なんで…」

「なんで?」


「な、なんで……」




“あの時キスしたの?


なんて聞けない…!”


問いに対する彼の答えを聴く勇気も無ければ、それ以前に、問うまで自らの心臓が持つかどうかの自信も無い。
何時もないない尽くしな自分に心中呆れる。



「オイ」


「な――


なんで、も、ない……」

「………ハァ。言いてェことあんならハッキリ言え」


彼女の睫が微かに揺れたのを見、高杉は溜息を吐くと共に眉を顰めた。
名前はその問いを聴かなかったことにし、組まれている彼の腕へと視線を移す。



「そ、そういえば、腕は大丈夫?」

「…あァ。つーか話逸らしてんじゃねーよ」

「ぅ……」


だが、なんとか誤魔化すことは成功ならず、ジロリと鋭い隻眼に捕らえられた。



「名前、言え」


「―――えっと……なん、で、さっき…い、い…」

「い?」

「い―――…」


(コンコン、)


「…………」

「……はーい」


意を決して口を開いたと同時に室内に鳴り響いたノック音。
名前は言い掛けた言葉の代わりに、軽く返事をすると、ドアの方へ向かった。






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