「本当にありがとうございました…!」

「大袈裟だ」


着替えを終え、部屋に戻った名前は、何時かと同じように丁寧に彼へ感謝する。
そんな彼女に、高杉はフン、と鼻で笑いながら殺虫剤を元の場所へ戻した。



「だって、私にとっては大敵だったから…っくしょん!」

「…………」

「失礼…ズッ」

「髪乾かせ」

「すびません…わっ」


くしゃみをし、鼻を啜る名前に呆れ気味の高杉は、溜息を吐きながらも彼女の肩にあるタオルでその髪をワシャワシャと拭き始める。
初めは乱暴に拭かれていたのだが、その手付きは少しずつ優しくなり、名前はふと口を開く。



「ねぇ、高杉くんて実家が美容院とか?」

「は?」


突然問われたそれに、高杉は「いきなり何だ」とでも言うように動かしていた手を止めた。



「いや〜、何か…拭き方がプロっぽいっていうか……」

「違ェよ」

「あれ…」


「……チッ…」


否定した次は舌打ちをした高杉。
名前は首を彼に向け、頭上にはてなマークを浮かべる。その彼女をチラリと見やり、高杉は再び手を動かした。



「…………」


「……ほらよ」


「あ、ありがとう…」

「後は自分でやれ」


拭き終えたタオルを彼女の頭から外し、それを彼女に渡すと、高杉は立ち上がった。
名前は舌打ちの意味が分からないまま、自らも立ち上がり渡されたタオルを肩に掛ける。



「あの、本当にお礼しなくていいの…?」


「……………」


「あ、えと…その、み、見せるとかじゃないやつで…おごるとか……」



「――ンなに礼がしてーのか?名前ちゃん」


名前が言葉につっかえていると、高杉は彼女の顔を覗き込み、ニヤリと口角を上げた。

ふわりと鼻を擽る彼の香りと、その独特の雰囲気に名前は肩を小さく跳ね上がらせる。



「いや…その……おっ!?」


考える暇もないまま、彼の腕に腰を引き寄せられ、一気にその距離は縮まった。
お陰で暖房が鬱陶しく感じるくらい名前の顔には熱が溜まっていく。



「そこまで言うならしてもらおうじゃねーか」

「えっ、いや、あの…っ!!」


あまりの近さに、ドクンドクンと打つ音が高杉に伝わってしまっているのではと思うくらい、心臓までもが騒ぎ出した。



「―――っ」


そのまま、くい、と顎を持ち上げられれば、顔は沸騰寸前。
近付いてくる彼の端正な顔に、名前は、きゅ、と目を瞑った。






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