風呂から上がり、名前は洗面所のドアを開けたのだったが、その瞳に映ったものに驚き、再びドアを閉めてしまった。



「ヤダヤダヤダッ!あーっ、ちょ、どーしよ…!!」


狭い洗面所をバスタオル一枚でウロウロする理由―――

それは先日、土方との会話の中で彼女が吐いた“嘘”に出てきた登場物。




『………じ、実はさ、出たのよ』

『出たって…?』


『“G”が』


『“G”って……もしかしてゴ『あー!!言わないでっ!!!まじでやめて、まじで!!』






「本当に出ちゃった…」


“嘘が真に”。
鏡の前で、そこに映る自らの姿と睨めっこする名前。

今の格好で“G”と対面等、彼女に出来る筈も無く、それ以前に、完全防備していようとも一人では相手に出来ない強敵。



「お母さん……」


勿論その名を口にしても無駄な事で。

何処かの天パ教師のように、死んだ目になった名前が先程脱いだ服を弄っていると、カタン、と何かが床に落ちた。



「―――携帯…あ!」


運良く?携帯をポケットに入れたままだったようで、名前はそれを拾い上げる。

そして、思い付いたように携帯を開き、電話帳を見ていく彼女の目は生き返っていた。




**





―――その後、番号を教えてもらっていた女子の何人かにかけたのだが、此方は運悪く誰も出なかった。



「まじかぁ…。神楽ちゃんは…携帯持ってないしな〜……」


はぁ、と俯く名前の顔は打って変わり、絶望の淵に立たされたようになる。

再度携帯に視線を移し、電話帳をスクロールしていくと、目に留まった一つの名前―――…




“高杉晋助”



「…………」


一旦其処でスクロールを止め、一息吐く。
部屋が隣で、先程まで一緒に居た高杉だが、医務室の事がある為、名前は複雑だった。



「…どうしよ…なんか悪いし…ていうかさっきの事もある……っくしょい!寒…っ」


あれこれ考えていると冷えてきたのか、身体がブルッと震え名前は腕をさする。

すると、携帯を持ったままさすっていたせいか、自らの指で通話ボタンを押してしまった。



「?あーっ!!ちょ、切る切る!」


携帯を耳に当て、慌てふためき、電源ボタンを押そうとしたのだが―――



(プルルルル、プルルルル…、プ、)


『………何だ』

「!!!」


“でででで出ちゃったぁっ!!!”






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