「―――あっ…!!」



自室に戻り、サングラスを取って漸く頭も落着いた名前は、ハッと突然思い出したように、指でそっと自らの唇に触れる。




「ファースト…キ、ス……」



先程の医務室での高杉との口付け―――考えてみればそれは、彼女にとっての“ファースト・キス”だった。



「〜〜っ」


名前は一人顔を真っ赤に染め上げ、屈み込んだ。


“そうだ…、はじめてだったん、だ……”


あの時は気持ちに余裕が無く、いっぱいいっぱいだった為、そんな事など気にしていなかったが、今になってそれを自覚し、どうしようもない恥ずかしさに襲われる。



「――――…」


再度触れれば、其処は熱く―――。
それは生きていれば当然の事なのだが、微かに違うのは、その熱がやけに気になってしまっている。

名前は、トン、と扉にもたれ掛かり、唇から頬へと手を移動させ、自らそれを包み込んだ。



「はぁ……どうしよ…」


こうして先程の出来事を思い出してしまった以上、嫌でも高杉を意識してしまう。

ふと、転校して来た時、沖田に言われた言葉が脳裏を過ぎった。



『女遊びが激しいらしいから、って意味でさァ』



「やっぱ……慣れてるの、かな………」


沖田の言葉が本当であれば、名前とは反対に、彼はこんな事、全く意識していないだろう。



「女遊び…か――…」


其処まで考えた所で、何となく虚しさが込み上げてきた名前は、「やめやめ!」と首を振り立ち上がった。

そして、ミルクティーをかけられた事により、少々ベタついている髪を綺麗にする為、風呂に入る事に。




**





「あー、着替え…」


風呂から上がり、バスタオルで身体を拭こうとすると、着替えを持ってくるのを忘れていた事に気付く。



「ぼーっとしてたからかな……」


唇に意識が集中してしまっていた自分に一人苦笑いを零すと、バスタオルをくるりと巻き、着替えを取るため洗面所のドアを開けた………


(ガチャ)



「……うぞっ…!!!」

(バタンッ!)






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