−5限目− 【携帯電話は鞄よりポケットに入れておけ】 「えぇ!!?…………」 ―――三人の意外な関係に名前は目を見開き声を上げると、そのまま固まっていた。 「驚き過ぎだ」 「だって…!そ、そんなに仲良しだったなんて……」 「だから仲良しじゃねェってんだよ」 「名前ちゃん、仲良しではないからね」 決して仲良しではないと否定し続ける高杉と銀八に対し、桂はニコリと名前に微笑む。 「いや、それなりに仲良くやっていたからな。なぁ高杉」 「仲良くはやってねェ」 「お前らは俺の“しもべ”だったろ?」 「ハッ…ふざけんな。誰がテメーなんぞの召使いだ」 「何言ってんの。お前らによく飯とか作らせたじゃない」 「あァ?ありゃあ、俺らが自炊してたのをテメーが摘まんでやがったんだろ」 「………」 “スゴい……” 「苗字さん、レアな現場に遭遇したな」 「や、やっぱり?」 「高杉がここまで喋るのはこういう時だけだからな。よく見ておけ」 「うん」 普段無口で、あまり人と会話を交わさない高杉が銀八と言い争っている今、名前にとっては興味深い光景だった。 「ヅラ、何吹き込んでやがるテメェ」 「ヅラじゃない、桂だ。レアな光景だと言ってただけだぞ」 「何がレアだ…」 「お前がちゃんと喋る時は極めて少ないだろう?」 「ま、確かにそうだよな。ビデオ撮ったら高く売れんじゃね?」 「テメーらいっぺん黙れ」 「ふふ…」 三人のテンポの良い会話に、名前は小さく笑みを零す。 その笑みに、高杉は眉を顰めながら、彼女の鼻を軽く摘んだ。 「笑ってんじゃねーよタコ」 「いたっ!だ、だって…」 銀八は、先程の名前の笑みと今の彼女と高杉を見、緩く口角を上げるとガシガシと頭を掻く。 「んじゃあ、俺ちとまだ用あっから行くわ」 「あ、うん」 「ヅラ、お前も手伝え」 「ヅラじゃないです、桂です。何をですか?」 「いーから来なさい。じゃ高杉、あと頼むわ」 「―――あァ」 「?」 何の用なのか詳しくは言わずに、銀八は桂を連れ、高杉に何かを託すと、医務室を出て行った。 * 「…………」 「…銀ちゃんも“ヅラ”って呼んでたけど…桂くんのあだ名なの?」 「いや、あだ名じゃねーよ。“ヅラ”が本名」 「え!そうなの!?」 真顔で吐かれた言葉を名前は真に受け、「ヅラ小太郎…くん……んん?」等ぶつぶつと呟く。 その様子を見、高杉は笑いを堪えながらドアノブに手を掛けた。 「さっさと部屋戻んぞ」 「?」 「その面で誰かに遭うと面倒だろ」 「――…あ、でも大丈夫だよ」 「あァ?」 「これ掛けるから」 そう言い、名前が鞄から取り出したのはサングラス。それを掛け、「ほら」と口角を上げる。 「……………」 「な、何…?」 「―――別に」 サングラスを掛けた彼女に何か言いたげな高杉。 その表情に、名前は何故か急に恥ずかしくなり、頬を赤らめる。 「こ、これが一番いいの!」 「だから、別にっつったろ」 「ほら、医務室から部屋まですぐだし!」 「わァったから行くぞ」 必死に頷く彼女に、高杉は「はいはい」と言わんばかりに後に続くよう促した。 . [章割に戻る] |