「――良かった…なんとか解決して」 銀八と女生徒の後ろ姿を見ながら名前は一息吐き、二人が見えなくなると、ゆっくりとドアを閉めた。 「名前」 「ん?」 高杉はベッドに腰掛け、目前で薬品の片付けをする彼女に静かに声を掛ける。 「嫌な思いさせちまったな」 背中越しに聴こえる高杉の穏やかな声色。 名前は其方は振り向かないまま、口を開く。 「―――…ううん。大丈夫。私の方こそ…ごめんね」 「は?何でお前が謝んだよ」 「だって、高杉くんにケガさせちゃったのは、私が夜中……」 「バカじゃねーの?」 「……………」 「お前の部屋行ったのは俺だろうよ」 「そうだけど、それは私が弱いからで……」 「名前」 「―――…何?」 「泣いてんのか?」 片付けが終わって尚、先程から背を向け続けている名前に高杉は問う。 「何で?泣いてないよ」 笑いながらそう否定した彼女の声が、微かに震えているのを高杉は聴き逃さなかった。 「また嘘吐くのか」 「……………」 彼の言葉に返事はせず、名前は唇を噛み締め、押し黙る。 「名前」 「……だから、泣いてないってば」 「名前」 「泣いてないって――…」 何度も何度も彼女の名を呼ぶ高杉。その一つ一つが、名前の耳を刺激し、徐々に顔を歪ませていく。 「名前」 「………っ、泣いてな――…っ!!」 「いい加減にしろ」 (ドサ………) 「――――…っ」 何時までも否定し続ける名前に高杉は苛立ち、彼女の手首を勢い良く引くと、その身体をベッドへ押し倒した。 「ヘタな嘘吐くなっつったろ」 「…………」 「馬鹿野郎が」 「わ、たし…野郎じゃない、よ……っ」 「なら、何で全部テメー一人で背負いこんでんだ」 「……………っ」 名前は堪えきれなくなった涙を隠すように腕で両目を覆う。 「……………」 「…っ、私は……いっつも弱すぎる……っ」 「……………」 「弱っちい自分が大嫌いなの…っ!!!」 荒げた彼女の声は、頼りなく、今にも壊れそうで、高杉は眉を顰めた。 「…お前のどこが弱っちいって?」 「誰かに支えられなきゃ進めなくて…自分一人じゃ何も―――…」 「一人じゃ何もって言うわりにゃあ、今回の事、全部テメーで解決するつもりだったろうよ」 「―――…」 「お前は弱ェんじゃなく、避けてるだけだ」 「……………」 「怖ェから、誰とも深く関わろうとしてねェだけだろ」 「…………っ」 名前が人と深く関わるのに臆病になっているのを知っている高杉。 それは、彼女は弱いのではなく、自らが一本線を引いてしまっているのだと教えた。 淡々と降りてくる彼の言葉。その一つ一つが、名前の胸に優しく突き刺さる。 「……ハァ」 「ぅ………っ」 「……………」 「ぐす……っ」 「起きな」 「っ、」 高杉は小さく溜息を吐くと、唇をきつく噛み締める彼女の手を引き、ゆっくり起き上がらせた。 . [章割に戻る] |