「オイ」


「ん?」


医務室へ向かう途中、高杉に声を掛けられ名前は足を止め振り向く。

すると突然、彼の顔が頬に急接近し、ぎょっと目を見開いた。



「ななななな何…!?」


「―――何で顔が紅茶臭ェんだよ」

「…あ―――…」


くん、と頬の辺りを嗅がれ、至近距離で目を細められ、名前は顔を真っ赤に染め上げながら先程のやり取りを思い出す。


「これは――…えと…と、いうか!ちっ、近、すぎるよ…高杉くん……!」


「………まァいい。後で説明しろ」

「え…あ、えっ!?」


“説明って――…高杉くんに…するのォォォ!!?”


スタスタと歩く高杉の背中を、名前は色々な意味で未だ鳴り止まない胸の鼓動を感じながら追った。




**





「とりあえず、そこに座ってて」

「…………」


医務室に着くと、誰も居なかった。


名前は高杉に座るよう促すと、手の消毒ついでに、ベタついた顔を水道で軽く洗う。



「よし。腕、氷で冷やす?」

「たかがアザだ。そこまでしなくていい」

「そう?じゃあ〜…」



(カタン…カチャ、)



二人きりの静かな医務室――。
一つ一つの音が室内に鮮明に響く。


棚から湿布等を取り出し、名前は彼に向かい合うように椅子に腰掛けた。



「――湿布貼るね」

「…………」

「大丈夫?」

「あァ」

「良かった。包帯も巻きます」

「…………」

「…………」


高杉の腕に湿布を貼り、淡々と、手際良くその周りに包帯を巻いてく名前。



「――…はい、OKです!…っ、」



端を包帯止めで止め、立ち上がり、片付けに向かおうとした彼女の手首を掴みながら、高杉は低い声を出した。



「名前、説明しろ」


「……やっぱ、そうなります?」

「当たり前だ。座れ」


「………はい」


顎で椅子を差し、彼女を座らせる。
彼が漂わせる空気に、名前は自然と敬語になり、背筋を伸ばした。



“い、威圧感がスゴいんですけど……”




「誰にやられた?」

「え――…?」


「自分で顔にブッかけるわけあるめェ」

「……………」


ジロリと送られた、その鋭い視線に捕らわれ、名前は固まってしまった。



「例の噂が原因か?」

「……………」

「名前」


「―――まぁ…」


「写真の事も、ヅラから聞いた」

「ヅラって……あ、桂くん、に…?」


「やった奴ァ同じなんだろ?どいつだ」


声色からして、高杉は相当怒っている。
その、怒が混じる低音に名前は肩を強張らせ唾を飲み込むと、服の裾を握り締めた。



「それは――…言わない」

「あァ?」

「言ったら高杉くん、どうするの…?」


「―――相手によっちゃあ………「待って…!!やっぱ、言わない!」


ニヤリと笑みを浮かべた高杉に恐怖を感じ、名前はブンブンと首を振る。



「チッ………」


その答えに高杉は苛ついたのか、舌打ちをすると、彼女の手首を掴み引き寄せた。


「わっ――…!!」

「言わねーのか」

「……………」


「オイ」


「……い、言わな――…っ!?」


一向に言う気のない名前。

高杉は一瞬眉を顰めると、そのまま彼女の頭を引き寄せ、その唇に、自らのそれを重ねた。



「――――…」



「―――…、た、かすぎ、くん…」



たった一瞬の口付けは、咎めるように強引ながら、しかし優しく、名前は高杉から瞳を逸らした。



「…………」



「私―…言えないよ…」


「何でだ」


「…………」


熱の残る唇、全て見透かしているような彼の鋭い眼差し。名前は俯き堅く口を結ぶ。



「……………」


「……………」




(ガチャ…)



「「?」」


重い沈黙が流れる中、突然ドアが開き、二人は其方へと視線を移した。






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