互いの言葉が途切れた時、後ろから銀八の声が聞こえ、二人は其方に視線をやる。

銀八は、名前を捜していたらしく、小走りで二人の元へ駆け寄った。



「銀ちゃん、どうしたの?」

「とりあえず校舎裏行って」

「校舎?」


「名前が行った方がいい。その方が多分、高杉言うこと聴くから」


「え、高杉くん…?どういう意味?」


「―――君なら分かるよな?」

「……………」


現時点で話が全く見えない。
しかし銀八が女生徒へと視線を移したので、名前もそれに合わせて彼女を見る。



「―――…私が…わざと、前にしん…高杉くんに喧嘩で負けたっていう男子達を、呼んで……」

「仕掛けて、わざわざ再戦させたんでしょ」

「さ、再戦て…何それ…何でそんな……。というか、どういうこと?」


「それで、やられたアイツを自分が助けたかった、だろ?」

「……………」

「君なりに思いついた、アイツに近付く方法か」


名前だけではなく、高杉の方にも仕掛けをしていたらしい。
断片的だが、何となく話が見えてきた。

銀八の声色は穏やかだが、厳しくもある。女生徒は唇を噛み締め俯いた。


「それなりに手が込んでるけど…宜しくないな、こういうやり方は」


「………はい…」


「――――…」

「それに、アイツは何人相手でも負けないと思うよ」

「な、何人!?」


真剣な話だったのだが、銀八の言葉に名前は思わず目を見開く。
どこぞのヤンキー漫画じゃないんだから、と突っ込みかける。



「ケモノだから」

「あ〜ケモノ……。じゃない!私、校舎裏行ってくるね!」


「さすがに一カ所くらいケガしてるだろうから、医務室頼むわ。後で俺も行く」

「うん!」


高杉の性質に納得している場合じゃない、と名前は頭を振り、勢い良く走り出した。
その姿を見送ると、銀八は女生徒へと視線を戻す。




「………話、すっか」


「――――はい…」





**





「ハァ、ハァ、」




――――…



名前が校舎裏に着くと、其処に居たのは高杉一人。



「ハァ…高杉くん…!」

「……………」


息を切らしながら名を呼ぶと、彼は無言で振り返る。
袖が捲られたその左腕には痣が出来ていた。



「腕…!だ、大丈、夫…?」


名前は彼の元へ駆け寄り、その腕に触れようとする。


が――――…




「っ!?―――…」


パシンと手を払いのけられてしまい、名前は少しばかり驚きながら、ゆっくりその手を引いた。
高杉はその姿に一瞬眉を顰める。


「――…悪ィ」

「う、ううん。私もごめん。……それより…大丈夫…?」

「あァ。この一発だけだ」


言って高杉が拾ったのは、薄汚れ、歪んだ鉄パイプ。
名前は思わず目を見開きそれを手に取る。


「!これで殴られたの!?」

「一瞬油断した」

「ほ、骨は!?」

「大袈裟。大した事ァねーよ」

「そっ、か………」


もし骨に支障があっては、学校での治療で済むはずがない。
平然な顔で、くい、と腕を動かす高杉を見、名前は胸を撫で下ろした。



「でも、何でまた…鉄パイプなんか」

「弱ェから道具に頼ってんだろ」


「―――…とりあえず、医務室行こう」


「…いらねーよ」

「ダメ!それは…ダメ。行こう?」


「―――チッ…」


たかが痣、という訳にはいかない。怪我は怪我。
面倒臭そうにした高杉の右手を引き、名前は寮内の医務室への足を進めた。






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