「苗字」 「んー?」 「どうしたんだよ…昨日から変だぞ?」 一方、土方と共に場所を移動した名前はベンチに腰掛けていた。 其処は、先程まで高杉と桂が座っていた場所。 “煙草のニオイ―…” 「……………」 「高杉のヤロー……何かしたのか?変な噂もあるみてーだし…」 「――いやいや、高杉くんは何もしてないよ」 「じゃあ……って、苗字?」 “また………?” 名前は土方の問いを聴きながらも、昨日の廊下でのような気配を感じ、辺りを見回す。 「オイ」 「あ、ごめん」 「何だよ?」 「いや…何か、昨日から気配感じるんだよね」 「気配?お、お前、霊感とかあんのか…?」 「ううん。じゃなくて、誰かに見られてる気がする……」 うーん、と顎に人差し指と親指を掛ける名前に、土方は顔を引きつらせた。 「ま、まじかよ…」 「トォォシィィィ!?」 「?――あ、ゴ、近藤くんだ」 「ハァ…」 「ドコ行ったのォォォ!?」 何時もの如く、寮をぐるぐると走り、土方を探し回る近藤。 名前は苦笑いを零し、土方の肩を軽く叩く。 「……ねぇ、行った方がいいよ」 「……あァ。…じゃあ、またな」 「うん」 「何かあったら、言えよ?」 「うん、ありがと」 近藤の必死な姿に呆れる土方だったが、名前の顔を見、小さく頷くと、寮へと戻っていった。 「ふぅ――…。もう、いい加減出てきてくれませんか?」 土方の背中を見送り、名前は一息吐くと、未だ感じていた気配の持ち主へと声を掛ける。 (ガサ……) 「…………」 “え――…?女の、子…?” 「あの……ちょくちょくついて来てたのって…あなた?」 「……………」 「えっと、何か言って…」 「こっち来て」 「はい?あ、ちょっと…」 目前に現れたのは、予想に反した、見た目大人しい小柄の女生徒。 女生徒は、ついて来るよう瞳で促すと、無言のまま体育館の方へ足を進めた。 ** 「わっ!」 名前は、突然の呼び出しに、素直に体育館裏へついて行ったのだが、其処に着いた途端、女生徒の持っていたドリンクを顔に掛けられた。 「ちょっ、何するんですか…!」 「甘い?」 これが俗に言う“イジメ”なのか?と名前が考えながら唇を舐めてみれば、ミルクティーの味がする。 「甘い、甘いですけど…!いや、というか、あなた…誰?」 一応答えるものの、勿論そんな場合ではない。 ハンドタオルで顔を拭きながら問うと、女生徒は拳を握り締めた。 「―――…に」 「……?」 「転校してきたばっかのクセに」 「へ…?」 “転校してきたばっかのクセに”―――その言葉だけでは全く話の意図が掴めない。 「どこがいいのよ」 「あ、あの〜……」 「アンタなんかのどこが…………」 「……………」 “私のどこがいいって…どこ?てか、何が?” 名前の頭の上には、“?”記号が一つ、又一つと増えていく。 「あの…本当に意味が分からな「晋助くんのバカ…!」 女生徒へ名前が疑問を投げかけようとすると、それを遮り出て来た、まさかの下の名前。 “晋助くんって…高杉くんの事だよね……?この子って―――…” 「あの、もしかしてあなた……高杉くんの…か、彼女さんですか…?」 恐る恐る問うてみると、女生徒は小さく首を横に振り、自らのポケットから写真を取り出した。 「私は、ずっと見てきたのに………」 「……………」 さり気なく名前が覗くと、その写真には高杉が写っていた。撮り方からして、隠し撮りされたもののようだ。 名前は写真と、今吐かれた言葉で全てを理解する。 「――あなたが、撮ったんですね、この写真も」 「……………」 名前が静かに言いながら、騒ぎの発端となった例の写真を女生徒に差し出すと、彼女は振り向き、それを見詰め、こくりと頷いた。 「高杉くんが、好きなんですね…」 「――――…」 「この事で、あなたに嫌な思いさせてしまったなら…本当、ごめんなさい!」 「……付き合ってるの?」 「いえ、付き合ってないです」 「付き合ってもないのに、何で部屋に………」 「それは――…」 あの時の事はどうしても言いたくなかった。 それは、高杉云々ではなく、名前自身の情けなさを隠したい気持ちの表れ。 「…いい。言わなくて」 「ごめんなさい。私…どうしたら許してくれますか?」 「え……?」 名前は深く頭を下げた後、拳を握ると、彼女と視線を合わせた。 「出来れば…私を許してほしいんです。誰かに恨まれながら生きるのって、やっぱ嫌なので…」 「…………」 「あ、でも“転校しろ”は勘弁して下さい…それはキツいので……」 言ったはいいが、無理な願いもあったな、と苦笑いを零す名前。 女生徒は、彼女から視線を逸らし、俯いた。 「―――私に、そんな事言う権利ないよ」 「けど――…」 「それにあなた…なんか抜けてる」 「ぬ、抜けてる?」 名前と会話を交わし、徐々にその人間性を感じ取った女生徒は俯いていた顔を上げ、再び名前と目を合わせた。 「嫌な思いさせたのは、私の方だし」 「……………」 「……………」 「名前!」 「「!?」」 . [章割に戻る] |