「特定するにはまだまだ…か……。あ――…」


写真を見つめ、溜息を吐きながら寮の外に出ると、目先に私服で歩く高杉の後ろ姿が見え、名前はその場で立ち止まる。



「……………」


“ダメだ―――…”


とてもじゃないが、今の名前には彼に声を掛ける勇気は無い。

きゅ、と口を結び、くるりと方向転換をした。




「苗字」

「っ!」


間違いなく後ろから聞こえた自らの名前に、恐る恐る振り返ると、其処には土方が居た。


名前の瞳に映るのは、土方と―――奥に居る高杉の背中。



「トシ………」


「お前…大丈「高杉くん!!!」

「「!」」


土方が彼女へ問おうとすると、バタバタと駆けてきた女生徒達の声に遮られた。



「ねー、あの噂本当!?」

「ガセでしょ!?」

「……………」


その女生徒達は、高杉に群がるなり、騒いでいる。



「噂…ってもしかして……」

「―――トシ、あっち行こ」

「オ、オイ…」


それを見ていた名前は、土方を呼び、その場を去っていく。
土方は彼女の表情に疑問を抱きつつ、彼女について行った。



「ねー、聞いてる?」

「…………」

「ねぇ!高杉くん!」


「うるせェんだよ。退け」

「ちょっ、何よ〜」


名前と土方の姿に気付いていた高杉は二人を横目で見、女生徒達に低くそう言うと、彼女達の間を通り抜け、寮へと戻っていく。

女生徒達は、彼の表情が険しかった為か、それ以上追い掛けはしなかった。




『何か言われたのか』


『いや…え、と……』



『お前には迷惑を掛けず、一人で解決したいのだろう』



「……………」




「オイ、」

「?」


高杉は、自らの問いに顔を引きつらせる名前や桂の言葉を頭に浮かべる。すると突然、目前に立つ数名の男子生徒に道を塞がれた。




「顔貸せ、高杉」




―――――…





**





「久しぶりだなァ高杉」


高杉の前に現れた男子生徒四人は、校舎裏へ着くと、彼を囲うように立った。



「あん時はよくもやってくれたよなァ?」


「……テメーら」

「今日はその礼をしに来たぜ」



「―――誰だ」


「「「は!?」」」


真顔でさらりと吐かれたそれに、男子生徒達は目を丸くする。高杉は短くはぁ、と溜息を吐き、続けた。



「だから、誰だって聞いてんだ」

「テメッ!しらばっくれんのか!?」

「チッ…しらばっくれるも何も、テメーらなんざ知らねーってんだよ」

「…っ!!相変わらず腹立つヤローだな…!!」

「前にテメーが俺達をボコボコに…って言わせんな!!!」


彼等は以前、高杉と喧嘩をし、見事に負かされた生徒だった。
わざわざ口に出させたものの、高杉はそれでも覚えていない様子で、怠そうに口を開く。



「………で?俺ァ、テメーらからどんな礼を受けりゃいいと?」


「そりゃあ、こういうお礼だ」


そう言いながら後ろから来た生徒の手には、鉄パイプが。



「きっちり受け取ってくれよ?でないとあの噂の転校生、どうにかしちゃうよ」


高杉はその言葉に、ニヤリと口許を吊り上げた。



「いいぜ、有り難く受け取ってやらァ。……来いよ」


「チッ…!!やれ!!」




―――――!!!







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