「高杉」 名前が戻った後暫くして、桂は、寮の裏庭のベンチで寝そべりながら煙草を燻らす高杉の元に来ていた。 「……テメーか」 「ちょっといいか?」 「何だ」 高杉はむくりと起き上がり、席を空ける。桂は、フ、と笑みを零し、その横に腰掛けた。 「こうして話すのは久々じゃないか」 「いいから用件を言え」 懐かしげに空を仰ぎ始めた桂に、高杉は紫煙を吹きかける。 「ケホッ!さっき、苗字さんと少し話をしてな」 「……………」 「噂の事は、お前も耳にしているのだろう?」 高杉は、自らの方を向いた桂を横目で見やり、今度は彼にではなく、空へと紫煙を吐き出した。 「……で?」 「彼女、何やら面倒な目に遭ってるかもしれん」 「……………」 「迷惑をかけたくないと…お前に言うつもりはなさそうだったがな」 「……………」 「だが、彼女一人で解決するのは危険な気がしてならん」 桂の言葉に、高杉は眉をピクリと上げる。 「お前、アイツと何話した」 「実はな―――…」 桂の話を唯唯黙って聞く高杉。彼の手にある煙草からは、ゆらゆらと静かに、その紫煙が上っていた。 ** 「う〜ん……」 一方名前は、自室で写真部の生徒から取り上げた写真を見つめていた。 「まず、Z組の人達は絶対こんなことしない」 個性は強いが、彼等はこのような真似をする人間とは思えない。 という事になれば、犯人は他のクラスの生徒か、将又教師か―――。 だが、他のクラスの生徒とは今の所殆ど交流が無く、捜すには相当な気力が必要だ。 勿論、教師にも、こんな事をするとは絶対に思いたくない名前。 「ダメだ…!先が見えない…」 ぐたりと机に寝伏せ、はぁ、と溜息を吐く。 「どうしよっかな……」 携帯を取り出し、ぼう、としながら弄ると、ふと、昨日高杉から届いた簡潔メールが目に留まり、それを見詰めた。 「――――…」 同時に、廊下での彼の背中を思い出し、名前は目を瞑ると、パタンと携帯を閉じる。 結局あの後、高杉には寮へ戻ってから今まで、一度も会っていない。 「何か…落ち着かないな……」 そうぽつりと呟き、名前は気分転換の為に廊下に出てみる事にした。 ** 少し歩くと、目先にイチゴ牛乳を飲む銀八の姿が見え、名前は其方へと足を進める。 「ぎーんちゃん」 「ん?あら名前ちゃん。どしたの?」 「んー、特に用はないんだけど」 「なになに、銀さんに会いに来たの?」 「まぁ、そんなとこ」 「…………」 「な、何?」 「い、いや、名前がそんな事言ってくれるなんて…」 “可愛いなチクショー…” 「…………」 頬を赤らめ、頭から湯気を出している銀八に、名前は若干顔を引きつらせた。 「つか…何か、あった?」 様子が何処か違うと感じた銀八は、気持ちを切り替え、彼女の顔を覗き込む。 名前は銀八の顔を一瞬見、俯きながら口を開いた。 「あの、さ…」 「?」 「……先生達も、みんな寮生活なの?」 もし、教師の誰かに撮られていたら色々と面倒な上、隠し撮り行為もそれはそれで問題な訳で。 「いや?俺と、坂本辰馬っつーバカだけ特別」 「バ、バカ?」 「そ。バカ。辰馬は一応、ここの寮監みてェなもん」 「寮監?そんなの居るの?」 「今は海外行ってて居ねーけどな。まァ、バカだけどいいヤツだよ」 「そっか……」 銀八の言葉で、あの時間帯に寮に居る大人は、銀八と、その坂本という人物の二人だけなのは分かったのだが―――… “ってことは、やっぱり生徒……” 考えながら目を細め、名前は深く呼吸をした。 「で、どうしたの」 「ううん、何でもない。ありがと銀ちゃん」 そう言うと、名前は銀八に手を振り、パタパタと廊下を駆けていく。 「また一人で頑張ってんのか…」 銀八はその後ろ姿を真剣な表情を浮かべながら見詰め、そうぽつりと呟いていた。 . [章割に戻る] |