――――翌日




『俺は本気ですぜ』




突然、沖田に抱き締められ、告白され――その上抱き締められていた所を高杉に見られ―――…



あの後一向に何も手に着かなかった名前は、寮に帰った後も出来るだけ皆と関わらないよう、適当にその場その場をやり過ごした。

途中、何人かに心配されたが、一々それに応える余裕も無く、気付けばあっさりと一日は終り――――


そんな状態で迎えた今日は、運が良いのか悪いのか、休日。
名前は暫くウダウダしていた為、今は昼過ぎている。



「はぁ………」


溜息を吐き、ベッドから身体を離すと、重い気分を抱えたまま着替え始めた。


「……………」


出来れば誰とも会いたくないが、休日の食事は寮内の階別共同キッチンを使わなければならないので、いくら時間をずらそうとも、それは不可能に近い。

名前は適当に髪を束ね、深呼吸を一つすると、部屋を出た。




**





「あ、」



「?あ、苗字さん。おはよう」

「お、おはよう」


キッチンに着き遭遇したのは、まだまともに会話をした事が無かった桂だった。

彼は、自ら作ったであろう食事を、白い妙な生物と一緒に囲っている。



「今日は髪型が違うな。一瞬分からなかった」

「あ、うん。ちょっと寝ぐせが……」

「はは、そうか。似合ってるぞ」

「……あ、ありがとう…」


「苗字さん、今から飯なのか?」

「あ、うん」

「ならば一緒に食わんか?少々作りすぎてしまってな」


さり気なく髪型を誉められ、苦笑いを零していると、桂から誘いの言葉が降ってきた。



「でも………」

「炒飯は嫌いか?」

「ううん。大好きだけど…いいの?」

「あぁ。なぁエリザベス」

「エ、エリザベス!?」

「コイツの名前だ」


先程から気になっていた桂の横の白い生物の名はエリザベス。
どごぞの女王様だと言わんばかりに、名前が苦笑いを零すと、エリザベスに「“よろしく”」という札を出される。


「よよよろしく…」


「さ、どうぞ」


「あ、ありがとう」


目前に差し出された炒飯は、皿に綺麗に丸く盛られ、其処から湯気が立っている。


席に着き、名前は何となく胸が温かくなるのを感じながら、置かれた蓮華を手に取った。



「いただきます」


ゆっくりと一口分を掬い、ふう、と冷ますと、それを口に運ぶ。


「……………」

「どうだ?」

「―――…美味しい」

「そうか。良かった」


名前の顔が綻ぶのを見、桂はニコリと微笑んだ。
そして、戸棚から湯呑みと急須を取り出し、茶の準備をし始める。



「ところで苗字さん、」


コホン、と一つ咳をし、声を掛けられた名前は、炒飯を食べる手を止めた。



「は、はい、何でしょう?」


「あまり元気がないようだが…何かあったのか?」


言いながら、名前とエリザベス、そして自らの分の茶を入れ、それぞれの前に置く桂。

その、生徒とは思えない落ち着き具合に、名前は出された湯呑みに手を添えた。



「……………」

「まぁ、言いたくない事ならムリにとは言わんが…」


「あ、あの、桂くん、」

「何だ?」

「桂くんは…写真部に知り合いとか居たり、する?」

「写真部?」


突然彼女から出たそれに、桂とエリザベスは目を合わせる。


「居ないが……写真部が、どうかしたのか?」

「……………」


「―――もしや、高杉の事で何かあったか」

「え…!?どうして…」


言うか言うまいか俯いていた名前だったが、桂の口から吐かれたその名に、勢い良く顔を上げた。



「妙な噂が飛び交っているようだからな」

「やっぱ、知ってるんだね…」

「俺と高杉は昔からの知り合いでな。こう見えてもヤツの事は詳しいぞ?」

「そ、そうなの!?」

「幼なじみ、といったもんか」

「は〜…意外……」


真面目そうな桂と、学校一の不良・高杉との意外な関係。名前は唯唯目を見開くばかりだった。






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