屋上へ着くと、高杉は梯子を使い、何時も居る場所へと上る。名前もそれについて行き、隣に座った。



「ありがとう…助けてくれて」

「別に助けたワケじゃねェよ」


高杉はそう言うが、実際あの時彼が来てくれた事により、名前は“心”が救われている。
普段あんなに感情を露わにすることは無かった為、自分でもコントロール出来ていなかったのだ。



「あ、びっくりしたよ、いきなりの一言メール」

「ククッ…そうかよ」

「はい、これ」


安心していたせいか、忘れかけていた彼からの“指令”を思い出し、名前はブラック缶コーヒーを高杉に差し出す。


「ブラックで良かった?」


「あァ。ご苦労さん」


交換するように小銭を返され、高杉はコーヒーを口にした。
それを見、力が抜けた名前は仰向けに寝そべる。



「はぁ………」

「どうした?」


溜息を吐いた名前を横目で見やる高杉。
彼女は自らの腕で目許を覆っていた。



「何か―…疲れた。何なのあの人達……」


“やたら詳しい上に……何で…こんな写真――――…”


先程の生徒から取り上げた写真が入ったスカートのポケットを握り、名前は唇を噛み締める。


「何か言われたのか」


「!――え、と…」




「ねーあれ本当かな?」

「?」

「…………」


高杉の問いに名前が戸惑っていると、下から女生徒らしき声が聞こえてきた。

名前は高杉を見るが、彼は全く興味を示さないので、一人そっと身を乗り出し、そっと聴き耳を立てる。



「高杉くんとあの転校生の苗字さんでしょ?」

「高杉くんがその子の部屋に行ってたって」




“え…!?”


女生徒二人が話す内容は、紛れもなく自分達の事で、昨夜の事。
名前はまさかの噂に目を見開き、高杉はというと、聴いているのかいないのか、呑気に寝転がっている。



「それ、本当だったらショックなんだけど」

「だって、みんな噂してんじゃん」



「……………」


“みんな”。つまり、学校中が噂をしているという事らしい。

名前は目を瞑り、マズいなと言わんばかりに眉間に皺を寄せながら身を引こうとしたのだが―――…



(カラ……)


「!!!」


塀の一部が脆くなっていたのか、手を掛けた瞬間崩れ、小さな音を立てながら下へ落ちた。



「「?あ、」」


「ど、どうも……」



“や、やっちゃったァァァ!!”


当然、見上げた女生徒達と目が合い、名前は苦笑いを零しながら軽く挨拶をする。

その心中は混乱状態。



「「……………」」

「……………」


此処に無言で見詰め合う女生徒が三人。

下の二人の見上げるその目が、「降りてこい」と訴えているように感じた名前。


一旦身を引き、ゴクリと唾を飲み込みながら高杉を見ると、彼もちらりと名前を見た。



“また高杉くんに迷惑かけるワケにはいかない……”


彼に一瞬口角を上げると、意を決したようにゆっくりと梯子を降りていく。
その姿を高杉は黙ったまま見届けた。






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