「あら、珍しいじゃん高杉。この時間に来んの」 「まァな」 「た、高杉くんが来た……」 その人物は、滅多にこの教室には来ない高杉だった。 「どういう風の吹き回し?」 「知らね」 「他人事だなァオイ」 教壇と後ろという距離がありながら、銀八とのさり気ない会話を交わすと、高杉はスタスタと自らの席へ足を進める。 (ガタ…) 「お、おはよ」 「あァ」 「結局朝ご飯食べなかったの?」 「二度寝の方が大事だ」 「あはは…そっか」 (ザワザワ…) 「苗字さん…普通に喋ってる」 「すごい……」 席に着くなり、名前の問いに淡々と答える高杉。 周りの生徒からすれば、それはとんでもない光景なようで、教室中は更にざわつきを増していた。 “ほ、本当に大丈夫なんだ…” 先程まで名前と話していた山崎も唖然としながら二人を見ている。 すると、彼の視線に気付いた高杉が其方を見、口を開いた。 「―――何だ」 「!す、すいません!!」 「……………」 高杉と目が合い、ぼそりと吐かれた言葉に山崎は肩を竦め、何故か謝りながら顔を逸らす。 「ンだアイツ…」 「高杉くんの睨みが怖かったんじゃない?」 「睨んだ覚えはねェ」 「じゃあ、ただ山崎くんを見たその目が怖かったんだね…」 「何か言ったか?」 どうやら高杉本人は睨んだつもりは無かったらしい。名前が一人納得していると、今度こそ彼に睨まれ、背筋を伸ばす。 「いえ、何でもないです!!」 「……それより、」 「はい!」 「夜、お前つけてなかったよなァ」 「つけてなかったって…?」 「Tシャツの下」 「っ!ゴホッゴホッ!な…っ!!」 話題が変わったと思えば、朝からとんでもない発言をした高杉に、名前は思わず咳き込んでしまった。 そんな彼女を横目に、高杉はニヤニヤと笑う。 「手に何も当たんなかったからよォ」 「ちょ、ちょっと…!いきなり変な事言わないでよっ…!!」 「事実だろ?」 「じ…まぁ、でも…というか、あのねぇ!!」 「ククッ…」 高杉の表情に、顔を真っ赤に染め上げる名前。 そんな会話をしていると、教壇から離れた銀八が二人の前に立った。 「ちょっとちょっとォ、何楽しそうに話してんの。センセーも交ぜなきゃダメだろー」 「ぎ、銀ちゃん」 「……………」 「名前ちゃん、顔赤いけどどうしたの?」 「別に、何でもない、よ」 「高杉ィ、お前名前に変な事吹き込んだ?」 名前のつっかえように、真剣な顔で高杉に問う銀八。そんな彼に、高杉は片口角を上げながら名前を見る。 「変な事ねェ…どうだろうなァ?」 「わ、私に振らないでよ…!」 「え、何、妖しいよ、その顔妖しいよ高杉くん。君たち何、何なの?」 「あーもー!何でもないから!銀ちゃん五月蝿い!」 (ガタッ) 「ちょっ、名前ちゃん!?待ちなさい!」 「……………」 銀八のしつこさに痺れを切らした名前は勢い良く席を立ち上がると、ドアの方へと足を早めた。 . [章割に戻る] |