だって恋は先手必勝




「あかん…惚れた…」
「はぁ?」


始業式が終わり、教室に帰ってからの俺は干物やった。いや、抜け殻やった。俺は心を盗まれた。心臓の奥で先程から花火が打ち上がっている。これはあれや。この胸の高鳴りは、そう、


「恋や…!」
「もうロックオンしたん?早いな謙也…」
「あかん白石俺…恋や…!」
「お前は恋やない、変や」


白石が隣で何やごちゃごちゃ言うとるけど、ここはあえてスルー。久しぶりや、この感覚。三年近く忘れていた、この気持ち。


「恋…」
「うん、謙也は恋してんねんな」
「せや…」
「で、相手は誰なん?新入生?」
「…あの、さっき代表挨拶しとった黒髪ロングの…ピアスが眩しい…」
「あぁ、財前光ちゃんな」
「何でおどれ名前知っとんねん?!」
「いや、名前言うてたやん。ついでに組も」
「何組やった?!」
「…それが人に物頼む態度なん?」


凄く悪い顔をして俺を見てくる白石。すかさず俺はポケットから財布を取り出し中身を確認した。…二万か…。


「…なんぼや」
「んー…組だけやし、五百円でえぇよ」
「ほい」
「まいど!確か財前さんは7組やで」


白石から情報を貰った俺は直ぐさま一年の階へ走った。なんせ俺には時間がない。俺の、あの忌まわしい噂が一年に広まる前に、財前さんと仲良くならなあかん。
いや、仲良くなるだけやと無理や。付き合えるところまでこぎつかな。俺はスイートエンジェルを手に入れるんや…!


「えっと…7組…」


教室のドアに貼ってある組の番号を見ながら歩く。と、一クラスだけ凄い人だかりがあった。…7組や。しかもその人だかりは大半が男。どうやら考えることは皆同じらしい。

だが、どうやら男達は遠巻きにクラスの中を覗いているだけの様だ。今を逃したら、他にチャンスはない。そう思った俺は直ぐさま行動に出た。

全ては、ラブを手に入れるため。


「財前さん!ちょっと、ええかな」
「……はぁ」


財前さんは窓側の一番後ろの席に座っていた。いきなり大声で呼んだからびっくりさせてしまったのか、少し間があった。どうやら隣の席の女子と会話をしていたようで、クラスの友達を作る機会を奪ってしまったんじゃないか、と今更後悔した。


「何か」
「あ…えっとー、その…」
「はい」


目の前に来た財前さんは、思ったより小さかった。多分やけど、身長は156くらい。そして、さっき見たよりも綺麗だった。


「俺、二年の忍足謙也言います」
「…二年?先輩ですか?」
「そ、うです」
「…忍足、先輩?」
「あ、はい!」
「……もしかして、理数科…」
「理数科やけど…それが?」
「いえ、何も」
「お、おう…そんで、その、」
「はい」



恋は先手必勝。先人は良い言葉を残してくれた。








「おおおお俺とメアド交換して下さい!!!」



だって恋は先手必勝



- 4 -
- ナノ -