まだ見ぬ君へ





将来の夢は旦那さんやった。今もそれは変わってへん。餓鬼の頃からの夢や。とりあえず医者になりたいと言う夢もあるけどな。


幼いながらも、餓鬼の頃の俺には好きな子がおった。幼稚園の時は『さゆり先生』。小学一、二年の時は『みよちゃん』。三年の時は『あかりちゃん』。そっからちょっと飛んで六年の時に『ゆきちゃん』。今もばっちり名前覚えてんで。ちなみにさゆり先生が結婚する言うた時には泣いた。幼稚園の真ん中で本気で泣いた。

まぁ結論から言わして貰うと、その時の俺は彼女達を全力で一方的に愛しとったし、将来この子の旦那さんになれたらなぁ…とかも考えとった。
しかし現実は冷たい。中一で始めて彼女が出来た。同じクラスの『りかちゃん』や。勿論俺は彼女を愛しとった。やから言うたんや。将来結婚しような、て。そしたらりかちゃん、何て言うたと思う?


「えー…何や重い…ごめん…」


俺はこの時、始めて自分が重いと知った。それから少しして俺とりかちゃんは別れた。そしてどうなったのかと言うと…


「忍足君て、めっちゃ重いらしいで…」
「えー、それほんまなん?」
「やって元カノのりかが言うててんで?ずっと一緒にいようとか結婚しようとか言われたー、て」
「うっわめっちゃ重い!」


俺の情報を流された。そして俺の周りから女子が消えた。後に知った話しやけど、「すぐ盛る」や「早漏」みたいなヤってもいないことまで流されていたらしい。所謂デマ情報やな。俺はまだ童貞や。


勿論そんな状況で俺に新しい彼女が出来るはずもなく。寂しい日々を過ごしています。またシングルベルや。今年もサンタは休みや。誰がクリスマスなんて作った。誰がバレンタインなんて作った。俺が日本を変える。この二つの日は俺が無くす。


忍足謙也、十六歳。
それでも将来の夢は旦那さんやったりします。







「あー…もう嫌やこの時期…」
「なんやどないしてん?」
「やって考えてみろや…春やで…?出会いの春やで…?新入生男子は今頃、あの子可愛えなぁ、とかそんな目でクラスの女子を見てる頃やで…?」
「やから何やねん」
「青春を謳歌してる奴が憎い」


高校二年の春。彼女ナシ。ケータイの中のアドレス帳の女子の数?母さんと婆ちゃん入れてえぇんやったら五人やな。他の三人は美容院の担当の姉ちゃんと、白石の妹と姉ちゃん。


ちなみに白石の妹は翔太の彼女やったりします。帰れ。


「俺も青春したい…」
「頑張ったらえぇやん」
「どうやって?俺クラスに女友達おらんのやけど?え?」


教室の窓から真新しい制服に袖を通した新入生を見る。初々しいわ。これから青春するんやなぁ。恋人作るんやろなぁ。ええわぁ羨ましい。そんで結婚までこぎついたりするんやろなぁ。消えろ。


「…まさか高校まで、俺の噂が広まるとはな…」
「…まぁ、確かに」
「なぁ白石、俺の何があかんの?俺ぶっちゃけキモい?なぁキモい?」
「普段のお前は普通やけど今はキモいな」
「やっぱ俺キモいんか…」
「人の話聞けや」


確かに俺はキモいかもしれへんし、重いんやろうなぁと思う。でも適当な気持ちでお付き合いなんてしたない。好きで付き合ってんねやろ?やったら別に、将来のことを考えてもえぇと思う。まぁそんな考えしとるから、未だに彼女ナシなんやけどな。


「どっかにおらんかな俺のスイートエンジェル…」
「スイートエンジェルはおらんな…でもこれはチャンスやで謙也」
「チャンス?」
「新入生…つまり、まだ謙也の噂を知らない子ばっかやろ?ばれる前に捕まえて、ばれたらばれたでちゃんと説明すればえぇんや」
「なるほど…!白石頭えぇな!ほな早速」
「いや始業式はじまったら新入生と顔合わせるやん」
「あ…それもそうやな!うん。落ち着け俺…」



MY HONEY!



待っててや未来の俺の奥さん!




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