スウィート・キャンディ スウィート・キス
急に冬の寒さになった先週から喉の調子がおかしい。ご飯食べるのも歯磨くのも早いっちゅー俺やから喉の痛みもスピードスター並に治まると思うていたが、一向に治る気配がない。
医者の息子やから体調管理は抜群やろと思うてる奴がいっぱいおるがそれはそれ、これはこれっちゅーもんがある。要するに医者の息子でも風邪を引くっちゅー話や。
「謙也、ちょっと声掠れてへん?」
「あ…やっぱ分かる?」
久々に白石が俺ん家に遊びにきて何をする訳でもなくベッドの上で二人してゴロゴロしてて…あ!べっべつに妖しいことしてた訳ちゃうで!(本当はいっぱいちゅーしたり白石の身体触りたいけど!)そんで学校の話とか最近電撃結婚した俺の好きなグラビアアイドルの話とかしてたら、急に『声掠れてへん?』って言われた。それにしても白石は鋭い。友達や家族でさえも気付かなかった小さな風邪の症状。やっぱ恋人やからわかってまうんかな…それやったらごっつ嬉しいんやけどな。
「たぶん風邪ひいた」
「多分って何やねん。まだ症状軽いから飴でも舐めといた方がええんちゃうん」
「えっ買いに行くん?めんどいなぁ…」
「めんどいとか聞いて呆れるわ。それやったら…」
そう言うとベッド近くに置いてあった自分のカバンをガサゴソとあさり「はいっ」と渡された飴。その飴を受け取り小さい包装紙に印刷された文字を見れば『季節限定!信州りんご』と書かれていた。滅多に飴やお菓子類を持ち歩かない白石が持ち歩いてるなんて珍しいから聞いてみたら「姉貴がセールでなんやで沢山買うてきたん」と説明してくれた。だがしかし、なんちゅうか飴ってなんや苦手やねん俺。口に入れたら舐めるとかやなくてすぐ噛んでまうから。(多分ガムの癖がついとるからかも。)
「ごめん白石、飴あんま好きやないから」
「はぁ?」
「ほんま、ごめん!」
「人が折角、心配したんに」
ぶつぶつ言うとる白石がおもむろに俺にくれようとした飴を口に入れて、さっきまで向き合っていた体制から今度は俺を無視するように背を向けて横になってしまった。
(あっやば!拗ねてもうた…!)
ハラハラドキドキしながらこれ以上白石の機嫌を損ねないよう慎重に話かけても一向に振り向いてくれない。
…どうないしようと思う反面、完璧で皆が頼りにするような白石が俺だけに見せるこの拗ねた姿やわがままな部分をさらけ出せる唯一の人間だと思うたら嬉しくなった。だがしかし、このままではいけないから俺が折れるしかない。
「わかった。白石の言う通りにする!やから、な?こっち向いて」
白石の肩越しから優しく囁く。ピクリとした肩からちらりと覗く白石の目と俺の目があった。「その飴ちょーだい?」と指差した先に白石の顔がブワッと音がするんじゃないかってぐらい真っ赤になった。
俺が差した方向は白石の唇。
「えっちょ…な、んっ」
驚いた勢いで振り向いた白石の唇を捕らえて俺の舌を捩じ込んだ。
「んん…ふ、ぁ…」
コロコロと転がる飴を捕らえようとすると白石の舌が邪魔をする。飴を盗られたくないのか、それともこのキスを楽しんでるのか。多分後者の方だ。だって白石の腕が俺の首に回されねだるように舌を絡めてきたから。「け…や、ぁ」と酸素を取り入れようと少し空いた口から俺の名前を呼ぶ白石に愛しさが増す。でもただで折れた俺じゃない。もっと絡めようとしてきた白石の舌を避けて無防備になった飴を捕らえてすかさず口を離した。
「ぁ…」
「飴ちゃん貰うたで」
少し物足りない顔をした白石の瞳には欲望が宿っていた。その瞳に見つめられるだけで身体が熱くなる。ちょっとは焦らしてやろうかなと思うたけど、これじゃあ俺が焦らされている感覚に陥ってしまう。我慢できない。その様子を察したのかクスりと笑う白石が、「飴…返して」と今度は自ら唇を重ねてきた。
「ん…ふ…」
「…ふ、しら、い…し」
絡み合う舌の熱でいつの間にか無くなっていた飴の存在を忘れ夢中になって、俺等は互いの唇を貪っていた。
スウィート・キャンディ
スウィート・キス
(飴よりも甘いキスをもっとちょーだい)
fin
_________________________
麻宮様から頂きました素敵謙蔵です…!ひぃぃ白石が可愛い!最後のグラデーションの仕方が分からず…無念です。ごめんなさい。
麻宮様この度は本当にありがとうございました!
- 1 -