「クリスマスが憎い」


気付いたらそう呟いていた。


今日はクリスマス。街中にカップルが溢れ、性なる夜を過ごすあのクリスマスだ。俺の記憶には、確かクリスマスというものは小さな子供達が「サンタさん来るかなぁ」とか言って胸を高鳴らす日だったはずだ。
誰だ。子供達のためのクリスマスを、カップルのためのクリスマスに変えた奴。出て来い。


部活から家に帰る道の至る所にいるカップル。右に手を繋ぎイチャイチャするカップル。左に人目も憚らずキスしまくるカップル。前にはハグをしている俺の親友と友達。


「…光、あいつらに唾を吐いてもえぇか」
「えぇんやないですか。後で何されても知らんけど」


白石とユウジを素通りし先へ進む。なんで俺は一人なんだろう。自然と足は早くなる。一刻も早くこの場所から立ち去りたかった。


「…来年は幸せなクリスマス過ごせるんかなー」
「何やねんいきなり」
「俺かて彼女欲しい。幸せなハッピークリスマス過ごしたいねん!」
「あー、さいでっか」
「…光は興味ないん?」


光は至極つまらなさそうにライトアップされたクリスマスツリーを眺めていた。確かにこいつは、クリスマスなんちゃらに流されるような奴ではない。それでも聞いてしまうのは、光も俺と同じ独り者だからで。イケメンなのに俺は今まで一度も光の浮ついた噂を聞いたことが無かった。


「別に。クリスマスやなくてもほんまに好きな奴やったら、イチャイチャするもんやろ」
「ま、まぁ…」
「クリスマス前に焦って恋人作る奴の気持ちなん分かりたくもないわ」
「………」


吐き捨てるようにそう言うと、光は両手に息を吹き掛け温め始めた。黒い髪から覗くピアスまみれの耳はほんのり赤く染まっている。


「…やけど、気持ち分からんでもないな」
「へ?」
「クリスマスに好きな人といたくなる気持ち」
「え、光好きな人おんの?」
「それ位おるに決まってるやろ。もう中二やで?」
「おったんかい」
「ちゅー訳で、今暇ですよね?」


ガシッといつの間にかかなり近くまで来ていた光に腕を掴まれる。光は鞄の中から財布を取り出すと、俺に映画のチケットを手渡した。


「男二人で寂しく映画デートと洒落込みましょうや」



メリークリスマスシネマ


その後二人で映画を見て、久しぶりにゲーセンに行った。ゲーセンの中はやっぱりカップルが多い。その大半がプリクラを取っていて、何と無く悔しくなった俺は光を誘って二人でプリクラを取った。

落書きには「メリークリスマスシネ」と書いておいた。



これが、俺が光から告白されて付き合い出す30分前の話です。





2010/12/25

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