「なんでかなあ…」
「ん?」

部活の休憩中、ノックに使うボールの選別をしながら呟いてしまっていた。その言葉を隣にいた泉に拾われる。何でもない、と一言だけ伝えた。煮え切らない顔をしながら泉は俺から目を反らした。

「まあ、なんでもいいんだけどさ」

泉はきっと、気づいている。俺の気持ち。言われた訳じゃないけど、きっと。

「後悔だけはしないように、とだけ言っとくわ」

傍にあった俺の帽子をぱすん、と被されて、彼は水道へと向かった。もう休憩が終わる時間だ。帽子を被り直してベンチから腰を上げる。

「後悔かあ」

後悔しない選択を、俺はできるのであろうか。どうなんだろう。なんでかなあ、じゃない。なんで好きになったかなんて、そんなの。
部活中考えることじゃないな。俺は蓋をして皆と監督の元へ向かった。





「お疲れ」

ノックを終えて、筋トレまでに着替えようと思ったら先に巣山がアンダーを替えていた。

「お疲れ、巣山」
「今日調子良かったな。イレギュラーっぽい打球もきっちり処理できてたし」
「うん、ありがと!」

ぽん、と頭に手を置かれる。巣山の大きい手が大好きだ。
なんで好きになったかなんて、たくさんたくさん、ある。理由はきっと、数え切れない。優しい笑顔とか、温かい手、真面目な横顔、態度…あそこが好きだと実感する度、想いは隠しきれなくなってくる。蓋をするには大きすぎるほど。

「うん」

好きじゃなくなることができないなら、忘れることができないなら。せめて、友達ではいたいと思う。精一杯蓋をしながら、一緒に頑張っていきたい。


5.諦めようとするのはもうやめた

「ほら、行こうぜ。今日は駐車場だと」
「…うん!」

嫌いになんか、なれなくて




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