入った店は、静かでいい雰囲気だった。予約をしていたから個室に通される。緊張してきた。

店を調べてそれで満足していたけど、それだけじゃなかった。忘れていた。
二人で食事、ということは…何か会話をしなければならない。仕事以外のことで、何か話を…って思い付かない、すぐには。どうしよう。

とりあえずビールを一杯頼む。平日だからかあまり混んでいないらしい。

「栄口さん、具合はよくなりました?」
「あ、お陰さまで…」

その節はお世話になりました。と頭を下げたら笑われた。巣山さんの笑い声は心地よい。てか声自体が柔らかい低音。落ち着く。

「よかった」

一呼吸置くと、ビールがきた。俺が戸惑っていると「栄口さんの快気祝いに、乾杯」と巣山さんが言ったのでジョッキをカツンと合わせた。リードされている、自分が情けない。

「そういえば」
「はい」
「栄口さん何かスポーツしてます?」
「スポーツ…そんな本格的じゃないですが草野球を」
「草野球すか。何かさっき背中に触れた時、見た目より筋肉あるように感じたんで」
「そ、そうですか?」
「はい。野球、好きなんですか?」
「一応大学までやっていたので。大学はサークルで、緩かったんですが」
「そうなんですか!俺も野球好きで、大学は軟式やってました」

思わぬ共通点。野球やっていて良かった!!

話していて分かったことは、同い年で、結構近い高校で野球やってて、しかも同じ内野手ってこと。
最近のプロ野球事情なんかでも盛り上がって、何となく二件目の雰囲気になってしまった。

「じゃあ、行きますか」
「あ、うん」

酒の力もあってか、すぐにタメ口へ変わった。俺は伝票を持って会計を済ませる。

ありがとうございましたおきをつけてー
マニュアル通りの言葉に「ごちそうさまでした」と微笑んで入り口を向けば、暖簾を右手で上げて待ってくれている彼。

こういうのにきっと、女子は弱いんだろ。
そんなこと考えながら、「ありがと」って言ってくぐった。




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