「あ、巣山さん」
「すみません、少し遅れてしまったかな」
「いえ、五分前です!!…俺もちょうど今来たんで!!」

待ち合わせ場所に着くと、栄口さんはもうそこにいた。信号の向こうから、そわそわ動く彼の姿が見えていたから、その嘘に苦笑した。

「す、巣山さん?」
「あ、いや…お仕事お疲れ様でした」
「巣山さんこそ」

お疲れ様です。そう言って微笑んだ彼の笑顔は、もう今朝の弱々しい顔ではなかった。随分調子がよくなったらしい。

「で、今日はどちらに?」

厚かましいかなと思ったけど、緊張しているのかなかなか動かない彼に振った。そしたら「あ」と言いながら慌てて携帯を出す。わざわざ調べてくれたのかな、なんて変な期待をしてしまう。コロコロ表情が変わる彼は見ていて飽きない。

「こっちみたいです」
「はは、みたいって」
「!」

彼は俯いてぼそっと喋った。

「ダメだなー」
「え?」
「ちゃんと、行きつけの店なんですって振る舞いたかったのに…ぼろぼろですよね」

俺は彼の背中に手を回した。

「そんなことないですよ。嬉しいです。色々考えてもらって」
「ほんと、今日は1日巣山さんのことしか考えてなかったですもん」
「、え」

数秒の沈黙の後、彼の顔は真っ赤になった。それをからかえなかったのはきっと、俺の顔も真っ赤だっただろうから。

「ほら、行きましょう」

なんで自分がこんなに照れるのかさっぱり分からなかったけど、とりあえずネオンのせいにしておく。





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