大人になってしまうと限界なども分かって臆病になってしまう。でも溢れ出す想いとの矛盾。その矛盾の中で、歩み寄って、寄り添って。俺とアイツは新しい道を二人で歩き出した。

「ただいまー」
「おかえり」

家に帰ると巣山はダイニングでパソコンに向かっていた。昨日研究に没頭していて、講師として受け持っている授業を忘れて行かなかったらしい。それがバレて次の授業で二回分の講義を上手くまとめてしなければならないらしい。自業自得と言えど大変そうだ。

「馬鹿だなー巣山」
「すみません」
「はい」
「あ、サンキュ」

ブラックのコーヒーを巣山の隣に置き、その向かいに腰を降ろした。

「ご飯何がいい?」
「ピーマン安かったから買ってある」
「じゃあ肉詰めでいい?」
「やった。ごめん、終わったら手伝う」
「いーよ。巣山は集中してください」
「面目ない」

パワーポイントとにらめっこしながら、巣山は眉を下げた。
一緒に暮らし始めて半年くらい経つけど、お互い家事を分担してうまくやっている。仕事はまだ余裕なんて無いけど少しは慣れてきた。これも担任持てばまた変わるんだろうな。

「さー作るか」

シャツの腕を捲ると、巣山の携帯が鳴った。

「お、篠岡」
「どちらさん?」
「前の会社の同僚。ほら前居酒屋で会った時にいた女の子」
「えっ、ああ…あの…」
「結婚すんだと。報告のメール」

相手どんな奴なんだろうな、って言いながら巣山は微笑んだ。

「おめでとうって返せばいいんかな」
「それだけ?冷たいよ巣山」
「…んー、じゃあ」
「ん」
「俺も幸せの絶頂って送っとくわ」

俺の顔を見て嬉しそうに笑ったから、何か恥ずかしくなって水道の蛇口をひねった。水が出る。

「ほ、ほら…今日までに終わらすんでしょ」
「はいはい」

意地悪そうにニヤニヤする巣山の顔は見ない振りをした。




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