「嫁に、おいで」

何を言ってるんだ、と自分でも思った。男相手に嫁だなんて。栄口とまたこうして…いや、前とは関係が違うけれど。こうやって一緒にいられることがすごく嬉しい。浮かれているんだろうな。

「すや、ま」

肉じゃがの器に箸を置き、驚いたように目を開いている。嫌われてしまったかもしれない。

「いや…無し。今のは忘れて」
「…来ていいの?」
「え?」
「嫁、に」

茶碗を持っていなくてよかった。持っていたら確実に落としていた。

「栄口」
「…なんて。うん。いや…学校決まってさ、今の家からじゃ遠くて。この辺りに引っ越そうかなって思ってる」

また近くなったら、仕事帰りとか会えるかな。と楽しそうに話す栄口を見て、浮かれているのは自分だけじゃないかもと自惚れた。
席を立ち、傍の棚から鍵を一つ取り出した。

「これ」
「?」
「いつでもおいで。…ってか、住むか?一緒に」

栄口の手に鍵を置き、そのまま手を重ねる。じわりと温度が伝わってきて、なんだか緊張してしまった。

「…でも」
「一人暮らしには、広いからな、ここ。お前が嫌じゃなかったら…おいで」

自分のテリトリーに入ってきても苦痛でない栄口なら、大歓迎だ。

「お邪魔して、いいの?」
「うん」
「試験前とか夜遅くなるかも。土日も部活とかでちゃんと休めるか分かんないし」
「お互い様だろ。俺だって研究に没頭することあるだろうし」

部屋はダイニングの他に二つある。一人の時間が確保したければ出来る環境だ。

「ありがとう巣山」

栄口はようやく笑って、鍵をぎゅっと握りしめた。




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