「そう…か」
ブランコをゆっくり漕ぎながら巣山は言った。暗いから顔はよく見えない。声色から笑っていないことは感じ取れた。今巣山は、何を思っているの?
離れてしまっても、友人としてはいられるはずだ。でも、俺はもう巣山をただの友人とは思えなかった。好きだ。友人として会っても、多分想いは変わらない。今までそうだったように。「また会おう」とか「そんなこと言うなよ」とか言って欲しかったわけじゃないけど、想いがだだ漏れしていたんじゃないかと不安になった。
「栄口」
少し跳んで巣山も立ち上がった。じゃり、砂の音がして距離が近くなる。鼓動がうるさい。
「ごめんな」
「え?」
「…ばれないようにばれないようにって思ってたけど、無理だったみたいだ。うまい言葉が見つからないけど」
「す、やま?」
謝るのはこっちの方だと、その意で目をじっと見つめる。暗闇に目が慣れてきて、巣山の苦しそうに笑う顔が浮かんできた。なんで、そんな顔するの。
「栄口」
名前を呼ばれるだけで幸福感に満たされる。
「好きだ」
視界が歪んで巣山の姿がぼやける。どうしたの、なんで、なんで。言葉が出てこない。代わりに頬に冷たさを感じる。それをそっと人差し指で掬った巣山は「泣かせてごめんな」と笑った。
「すや、ま」
「最後だから…気づかれてたとは思うけど。言わせてほしい。ずっとさ、栄口と話すたびに、会うたびに、友達としてじゃなくて…人間として、惹かれてた。好きになってた」
胸の辺りがじわっと熱くなる。これは夢なの、かな。巣山が、俺を好きだなんて。そんなこと。
「お別れだから、言っちまった。ごめんな栄口、本当にごめ」
「巣山!!」
まくし立てるように話す巣山を止めるべく少し大きな声を出してしまった。声が止まる。
「巣山」
「っ」
「俺だって、大好きだよ」
ばれていたのは俺の方だと思っていた。好きだと、もっと一緒にいたいと、全部巣山にぶちまけた。
「…なんだよ」
伝えることを一気に吐き出したから呼吸が速くなる。巣山はその場にしゃがみこんで「両思いだったんか」と楽しそうに笑った。様々な想いが溢れて、涙が止まらなくなった。
「栄口」
ぐいっと手を引っ張られて屈められ、同じ目線になる。
「俺と、付き合ってください」
ようやく、ようやく。
「はい」
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