「これ美味い」

カリカリの野菜チップスを食べながら、栄口は笑った。俺は徳利を傾けてお猪口へ日本酒を注ぐ。でももう数滴しか出てこなかった。おかわりを頼もうか。もう店に来てから二時間近くになる。栄口はレモンサワーをあと一口だけ残して野菜チップスを平らげた。

他愛ない会話をして、飲んで食べて。そろそろここを離れる時間ではないか、と思う。墓参りから真っ直ぐ来たため、まだ七時くらい。今までみたいにわいわい話したわけではなく、どこかに重い空気を纏っていたこの時間。栄口がレモンサワーを飲み干し、氷がカラン、と鳴る音を聞いて口を開いた。

「栄口」
「…っとさ」
「ん」
「…ここ、持つから…二件目行かない?ちょっと外の空気吸いたいや」

いつものふわふわした笑顔ではなく、冷静な顔をして彼は行った。そんな彼に慣れていない俺は代金は払うよ、という言葉さえ出てこずただ頷いた。二件目では俺が持てばいいか。



支払いを済ませて外に出たものの、なかなかいい店に巡り合わなかった。個室がいいらしく、しかし丁度いい店が見当たらない。

「…栄口」
「あ、うん?」
「公園、行かないか」

栄口が何か話したがっているのは見て分かっていた。話したいなら、酒は無くても二人きりになれる場所。俺達は公園へと向かった。



「あのね」

男二人ブランコに並んで乗り、揺られる。栄口は重い口を開いた。

「俺、先生になるんだ」
「え?」
「今までずっと目指してきたんだけど、なかなか受からなくて…この間ようやく。高校の古典のさ、先生。やるんだ」
「…す、すげーじゃん栄口。俺の友達も先生目指してる奴いたけど諦めてた。よく頑張ったな!」

つい興奮してしまい、早口でまくし立ててしまった。そんな俺を見て栄口はふわりと微笑んで礼を言った。いつもの栄口だ。

「…それでさ」
「うん」
「俺も、引っ越さないといけないんだ」
「…そう、なんだ」
「だから」

キ、とブランコが止まり栄口は立ち上がった。

「今日、巣山とお別れしないと」




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