「生中二つ」
墓参りを終えて、二人で近場の居酒屋に入った。個室があるところで良かった。色々話したいこともあるから。二人並んで歩きながら、一言も交わさなかった。しかしそれが居心地を悪くさせることはなく、むしろ安心した。隣を歩いている。ただそれだけで満足だった。
「今まで墓参り行かなかったのはさ、意地とか…かっこつけとか…そういうやつ。情けないけど」
ぽつり、と巣山は呟いた。
「大丈夫、だよ」
ビールが運ばれてくる。テーブルに置かれたそれを、互いに手に取ろうとはしなかった。
単純な意地とか何とかでお墓参りに行かなかった。でも、母さんを亡くした病のために薬学の勉強をしようと思い、実際に国家資格を取って働いている。それは、すごく格好いいことだと思う。巣山らしいな、って感じた。
「情けなくなんか、ない」
さっき墓で泣いたのに、また涙腺が緩む。声が震えているの気づかれたかもしれない。
「…ありがとな」
巣山がジョッキを持ったから俺も続く。無言でそれらをカツン、と合わせて、俺はビールを喉に流し込んだ。美味い。
「…大学に戻ろうと思ってる」
無言で半分ほど飲んだ頃、巣山は口を開いた。
「大学?」
「うん、昔世話んなった教授がいてさ。講師とか…しながら、研究しないかって」
「うおっ、すごいじゃん」
「…引っ越さないと、いけなくなる」
俺も泣きそうな顔しているんだろうな。でも巣山も、泣きそうな、辛そうな、そんな顔をしていた。
「…うん」
彼の手に腕を伸ばして自分のそれを重ねた。温かい。あの夏の日、繋がれた熱い手を思い出した。
そんな顔しないで。期待してしまう自分を消してしまいたくなるから。
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